微細DNA技術の発展でナノテクノロジーもナノテクノロジストだけの分野ではなくなってきた。ハーバードのWyss Instituteの研究チームが、細菌1個の10分の1という幅の自己集合型DNAケージ作成に成功した。2014年3月13日付Science誌オンライン版に掲載された研究報告で、このケージ構造はDNAだけで組み立てられたものとしてはもっとも大きく、しかももっとも複雑な構造をしていると述べている。

 

さらに、研究チームはDNAベースの超解像顕微鏡法を用いてこのケージ構造を視覚化、溶液中の完璧な人工DNAナノ構造の鮮明な立体光学画像を作ることに成功した。将来的には、DNAケージにコーティングし、内容物を封じ込めたり、体内組織に送り込むために薬剤を梱包することもできるようになる可能性がある。そればかりか、このケージに化学的なフックを付けて戸棚のように改造し、タンパク質や金ナノ粒子などのコンポーネントを引っかけておくこともできる。この方法で、超小型の発電所、専門用途の化合物を製造する微小工場、異常組織がつくり出す分子を検出することによって疾患を診断できる高感度フォトニック・センサーなど様々なテクノロジーをつくり出すことができる。Wyss InstituteのCore Facultyメンバーで、Harvard Medical SchoolのSystems Biology准教授を務め、この研究論文の首席著者でもあるPeng Yin, Ph.D.は、「このテクノロジーには大きな可能性がある」と語っている。


DNAは遺伝子情報の保管所として知られている。しかし、DNAナノテクノロジーという新しい分野の研究者は、DNAを使って様々な用途の微小構造をつくることを研究している。この構造はプログラマブルであり、DNAの中に特定の文字あるいは塩基のシーケンスを定義しておくと、そのシーケンスがDNAのつくり出す構造を決めるのである。
これまで、この分野の研究者はほとんどがDNAオリガミという手法を使っている。このDNAオリガミは、DNAの短い鎖が2,3本のもっと長い鎖を互いに綴じ合わせ、正確に意図した形に折りたたむことができるのである。
DNAオリガミは部分的にはWyss InstituteのCore Facultyメンバー、William Shih, Ph.D.が開発したもので、博士はHarvard Medical SchoolのDepartment of Biological Chemistry and Molecular PharmacologyとDana-Farber Cancer InstituteのDepartment of Cancer Biologyの准教授を務めている。

Dr. Yinの研究チームは、一本鎖DNAタイルや一本鎖DNAレンガと呼ばれるモジュール部品など、いくつかの異なるタイプのDNA構造をつくっている。この部品は、LEGORブロックと同じように個別に脱着ができる。

しかし、LEGORブロックと異なるのは、この部品はひとりでに自己集合するということである。しかし、用途によってはこれまでに作られたよりもはるかに大きなDNA構造を作ることも考えられる。
そこで、Dr. Yinの研究チームは、ツールキットを追加する場合のように、用途に向けてもっと大きなブロックをつくることを考えた。チームはまずDNAオリガミを使って撮影用の三脚のような形の超大型ブロックを作り上げた。この研究は複数の三脚構造の脚先端同士を結合させて稜とし、三角形、長方形その他の多角形の面を持つ様々な多面体をつくる技術を開発した。
ところが、Dr. Yinと、当時Wyss Institute Visiting FellowのRyosuke Iinuma、当時Wyss Postdoctoral Fellowで現在はGeorgia Institute of TechnologyとEmory UniversityのBiomedical Engineering准教授を務めるYonggang Ke, Ph.D.、Wyss Postdoctoral FellowのRalf Jungman, Ph.D.の3人の筆頭著者が大きな三脚をつくり、多面体を組み立てようとしたが、そうすると脚が広がってぐらぐらと揺れ始め、多面体をつくることができなかった。

そこで、研究チームは各脚同士を安定させる水平の支柱を構造に取り付けることで問題を解消した。家具職人がぐらぐらする椅子の脚の間に横材を渡すようなものである。
また、二つの三脚構造の脚の先端同士を結合させるためには、合致するDNAは対になって互いにねじれ合い、結合する性質を利用した。三脚構造の脚にDNAのタグを付けておくと、他の三脚構造の脚の一致するタグを見つけた場合、互いに対になろうとする。

研究チームは、先のDNA三脚構造ブロックの60倍の大きさ、またDNAブロックの400倍という大きさの頑丈な三脚構造をつくるようDNAをプログラムした。そうすると、1本の試験管の中で三脚構造が自己集合を始め、定義したタイプの立体多面体を完成させたのだった。また、横材の長さを調節すると、三脚の脚間角度も直角や任意の斜角など自由に変更できた。脚が互いに直交する三脚構造が多いと、三角面4面からなる四面体のように面が少なく、二つの面がなす角度も鋭角の多面体ができた。三脚構造の脚間の角度を広げると、側面6面と上面と下面の合わせて8面の円盤チーズに似た六角柱のように面の多い多面体になった。研究チームは、四面体、三角柱、立方体、五角柱、六角柱など5種類の多面体をつくった。

研究チームは、ケージを作った後、Dr. Jungmannが開発を手伝ったDNA-PAINTと呼ばれるDNAベースの顕微鏡法を用いてこれを視覚化した。DNA-PAINTは、加工したDNAの短鎖が構造上の点を点滅させ、点滅する画像のデータから通常の光学顕微鏡では見えないほど小さな構造物を見えるようにするというテクニックである。DNA-PAINTは、研究チームの作ったDNAケージの超鮮明画像を作った。
単一のDNA構造を水溶液環境で初めて立体的に画像にとらえることに成功したのである。Wyss InstituteのFounding Director、Don Ingber, M.D., Ph.D.は、「ナノテクノロジーの分野の発展を望む生体工学研究者は、頑丈なコンポーネントを絶対確実な方法で作る製造法を考案し、定義した通りの構造と機能を持ったナノスケールの装置を形成する自己集合法を開発しなければならない。Pengの開発したDNAケージと、溶液中でのプロセスを視覚化する手法は、その方向に向けて大きく前進させたといえる」と述べている。

この研究チームには、Dr. Yin、Iinuma、Dr. Ke、Dr. Jungmannの他、Wyss Instituteのvisiting student、Thomas Schlichthaerle、Wyss Instituteのresearch fellow、Dr. Johannes B. Woehrsteinらが参加している。

写真: 研究チームは、ケージ形のDNA多面体の超鮮明画像をつくるため、DNA-PAINTと呼ばれる手法を採用した。この手法は顕微鏡法の一種で、蛍光物質 (緑) のラベルを付けたDNA短鎖 (黄) を用い、多面体の頂点の対になる短鎖と結合したり、切り離れたりすることで頂点を点滅させる。頂点の点滅により、通常の光学顕微鏡では見えないほど小さな構造の形が見えるようになる。(写真提供: Harvard's Wyss Institute and Harvard Medical School)。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Harvard Scientists Create DNA Polyhedra That Could Deliver Drugs, Perform Other Functions

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