植物の成長に不可欠なリン(P)は、土壌中に豊富に存在しながらも、植物が吸収しやすい形にはなかなかなっていません。菌根菌と共生できないアブラナは、どうやってこの制約を乗り越えているのでしょうか。中国の研究チームが、根周りに住む細菌の約2割が、リン欠乏下でアブラナの成長を促す「相利共生」関係を築けることを見いだしました。

研究の概要

本研究は、Cell誌に掲載された論文「「Mutually beneficial interactions between bacteria and Arabidopsis promote phosphorus nutrition and growth(細菌とアブラナの相利共生的相互作用がリン栄養と成長を促進する)」」に基づきます。筆頭著者は亜龍湾国家実験室(Yazhouwan National Laboratory)および中国科学院遺伝・発育生物学研究所(IGDB: Institute of Genetics and Developmental Biology, Chinese Academy of Sciences)のヨンジン・ワン氏(Yongjin Wang)で、責任著者の一人としてIGDBのジェンミン・ジョウ博士(Jian-Min Zhou, Ph.D.)らが名を連ねています。論文は2026年8月18日にCell誌でオンライン公開されました。

菌根菌なしでリンをどう確保するか

リン(P)は植物の成長に不可欠な必須元素ですが、土壌中では不溶性の無機リンや有機リン化合物の形で存在することが多く、植物が直接利用できる割合はわずかです。多くの植物は菌根菌と共生することでこの問題を解決していますが、アブラナ属(Arabidopsis)のような非菌根性植物がどのようにリン欠乏に対応しているのかは、これまでよく分かっていませんでした。研究チームは、アブラナの根から分離された130株の細菌を対象に、リン欠乏下で植物のリン吸収や成長を促進する株がどれほど存在するかを体系的に検証しました。

130株中約26株が成長を促進

リン欠乏応答(PSR: phosphate starvation response)を検出するレポーター株(PT2-LUC)を用いてスクリーニングした結果、130株中26株(約20%)の細菌がPSRを低減させ、植物の新鮮重量や地上部のリン含有量を増加させることが分かりました。代表的な株である「R1280」(アシネトバクター属: Acinetobacter guillouiae)を用いた解析では、リン欠乏下の根が分泌するリン酸(malate)が化学走性因子となり、この細菌を根の表面(rhizoplane)に呼び寄せていることが示されました。

根の表面が相利共生の「現場」

GFPで標識した細菌のイメージングやin situでのリン染色による解析の結果、細菌は根の周囲の土壌空間よりも根の表面そのものに優先的に定着し、宿主由来の栄養を利用しながら、無機・有機のリンを可溶化・動員していることが分かりました。つまり、根の表面が植物と細菌が相互に利益を交換する「ホットスポット」となっていたのです。興味深いことに、細菌を単独で培養した場合のリン可溶化能力の高低と、実際の植物成長促進効果の強弱には相関が見られず、この効果は植物との相互作用に依存することも示唆されました。この相利共生関係は、複数の細菌が共存する群集(コミュニティ)中でも、実際のリン貧土壌中でも機能することが確認されています。

研究の意義と今後の展望

本研究は、菌根菌と共生できない植物でも、根の表面を拠点とした細菌との相利共生戦略によってリン栄養を改善できるという、新たなメカニズムを明らかにしました。研究チームは、この知見が貧リン土壌や低肥料環境下での作物のリン利用効率を高めるバイオ肥料や種子被覆型微生物剤の開発にもつながると期待しており、持続可能な農業への応用が今後期待されます。

なお、本論文はCell誌の購読制限のため本文全体を取得できず、要旨や関連報道に基づいてまとめています。

[Cell誌] [PubMed]

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