RTS, Sマラリア・ワクチン候補の大規模臨床第III相試験結果が2012年11月9日付New England Journal of Medicineオンライン版に掲載された。この結果報告によれば、RTS, Sマラリア・ワクチン候補がアフリカの乳幼児をマラリアから守ることができるとしている。対照ワクチンによる免疫を受けた乳幼児 (生後6週間から12週間で第1回の接種) と比較した場合、RTS, Sワクチンを接種した乳幼児では、臨床マラリア、重症マラリアの双方で3分の1ほど発症率が低く、また注射に対する副反応もほぼ同じ比率で発生した。また、この試験では、RTS, Sワクチン候補は、安全性と忍容性プロファイルも許容範囲だった。

 


この試験は、GlaxoSmithKline (GSK) と PATH Malaria Vaccine Initiative (MVI) が協力し、ビル&メリンダ・ゲーツ財団がMVIに助成金を出して、アフリカの7か国の11か所の研究センターで実施している。この試験の治験責任医師を務めるタンザニアのIfakara Health InstituteのDr. Salim Abdullaは、「この数年、マラリアに対する闘いでは大きく前進してきたが、依然として年間655,000人がこの病気で亡くなっており、その大部分はサブ・サハラ・アフリカの5歳未満の幼児だ。効果的なマラリア・ワクチンができれば、病気に対する闘いにも強力な武器になる。そのためにも私たちはこのRTS, S治験を進めてきた。この試験でRTS, Sが乳幼児をマラリアから守るワクチンになる可能性が見えた。また、この試験では、参加者が蚊帳を使い、さらにRTS, Sを投与することでマラリア予防効果がぐんと大きくなることだ」と語っている。


RTS, Sワクチンを6週間から12週間の乳児に初回として標準的な小児ワクチンと合わせて投与し、その後3回目のワクチン投与から12か月の追跡調査期間の臨床マラリアに対する効力は31%、また重症マラリアに対する効力は37%だった。試験参加者の86%が殺虫剤塗布した蚊帳を使い、RTS, Sワクチンが既存のマラリア予防対策よりも効果があることが示された。昨年、5か月から17か月までの乳幼児を対象に実施した臨床試験では、RTS, Sの効力は臨床マラリアで56%、重症マラリアで47%だった。

この臨床第III相試験の追跡調査がこれからも続けられ、データを分析し、RTS, Sワクチンの効力が年齢層の間で大きな違いが出たことについて理解の手がかりが得られることが期待される。Dr. Abdullaは、「今回の試験の結果は、昨年の5か月から17か月を対象にした試験ほどの効力が得られなかった。そのことでは、アフリカで試験に携わった科学者も以外に思っているが、それだけにこの試験からもっとデータを集めて分析し、マラリアに対するRTS, Sの効力に影響している要因が何なのかを突き止め、さらに、マラリアとの闘いにおいて、RTS, Sがどれほどの実力を秘めているかをもっと理解できればと考える。また、これまでの研究で、幼い乳幼児にも標準的な小児ワクチンと合わせて投与でき、また副作用も通常のワクチンのそれとほとんど変わらないことが分かって安心している」と語っている。

RTS, Sマラリア・ワクチン候補を投与されたグループと、比較用のワクチンを投与された対照グループの乳幼児の間で重大な副作用 (SAEs) の発生率には違いがなかった。また、出現した副作用も注射した部分の皮膚の反応がほとんどで、DTP-HepB/Hibワクチンを注射したグループに比べると、RTS, Sワクチン接種の方が副作用が少ないという結果になった。発熱は、RTS, Sワクチン接種の方が、対照ワクチン接種グループより多く、RTS, Sで30.6%、対照ワクチンで21.1%という結果になった。また、昨年の試験では、髄膜炎発症が9例あったが、今年、6週間から12週間の乳児を対象にした試験でも、RTS, Sワクチン、対照ワクチン・グループでそれぞれ1人ずつが髄膜炎を発症した。その後の分析の結果、11症例のうち、7症例でバクテリア感染による髄膜炎だということが突き止められた。

GSKのサー・アンドリュー・ウィティCEOは、「効力は昨年の試験より低い結果になったが、RTS, Sがアフリカの乳幼児をマラリアから守ることができると確認されたと信じている。マラリアはアフリカの保健衛生と経済成長にとって大きな負担になっているが、2回の試験でマラリア撲滅の新しい手段を探る作業に一歩前進することができた。マラリア撲滅の闘いでRTS, Sが役に立つことは確かであり、今後も試験パートナーその他の関係者と協力してデータの分析を続け、アフリカのマラリア蔓延地域に住む乳幼児のために公衆衛生を普及させるためにこのワクチンをどのように使えばもっとも効果的かを探っていきたい」と語っている。

PATH Malaria Vaccine Initiativeのデビッド・カスロウ理事長は、「アフリカでRTS, Sがどのように役立つかは、今後のデータの分析にかかっている。現在は、その実現に向けて重要な一歩を進めているといっていい。マラリア・ワクチンの開発に成功するかどうかはいくつかの要因で決まる。最大の要因は、協力関係と疑問の余地のない証明だ。次に、マラリアが蔓延している国々でもそれぞれ違った状況があり、マラリアと効果的に闘うためには闘う道具の組み合わせを状況に応じて変えていかなければならない。GSKチームと、アフリカの研究センターには、今回の試験での優れた活動ぶりに心からの祝福を述べたい」と語っている。

ビル&メリンダ・ゲーツ財団の共同創設者、ビル・ゲーツは、「今回の試験結果は科学的に重要な成果であり、今後も研究を続けていかなければならない。RTS, Sワクチンの効力は期待していたよりもかなり低いという結果になったが、マラリア原虫に対するワクチンの開発は非常に困難なものだ。試験はこれからも続けていくし、このワクチンをどのように活用するのがいいか、さらにデータを積み重ねていくことを期待している」と語っている。
RTS, Sワクチンは、GSKとMVI、アフリカの主要研究センターの協力関係で開発が進んでいる。協力者は、Clinical Trials Partnership Committee (臨床治験パートナーシップ委員会) のメンバーとして参加し、この委員会が、試験の手順を管理している。さらに、アフリカ、ヨーロッパ、北米の研究機関の科学者が参加して大規模な外郭チームでRTS, Sワクチンの研究に参加している。RTS, Sの臨床開発資金は主にMVIに贈られるビル&メリンダ・ゲーツ基金の助成金でまかなわれている。
今後も第III相試験の追跡調査を続け、さらにデータを積み上げ、その分析から、年齢グループによってRTS, Sワクチンの効力が大きく違った原因についてもっと理解を深める。このデータと分析から、異なるマラリア原虫媒介条件でのワクチン候補の効力についても理解を深めることができると期待されている。

3回目の投与から30か月にわたる追跡調査で得られるワクチンの長期的な効力のデータとブースター投与の影響のデータは2014年末には公開される予定になっている。このデータと分析結果で規制当局に提出する計画が明らかになる。その後、必要な規制当局の認可が得られ、また、臨床第III相試験プログラムの安全性データや効力データなど公衆衛生関連資料が満足のゆくものであると認められれば、RTS, Sマラリア・ワクチン候補に関する政策勧告は早ければ2015年にも可能であることは世界保健機関 (WHO) がすでに示唆しているところであり、アフリカ諸国が全国予防接種プログラムを通してこのワクチンの大規模な実施への道が開かれることになる。

効果的なワクチンを、蚊帳や抗マラリア薬と併用するという方法はマラリア撲滅に向けて一歩も二歩も前進ということができる。GSKとMVIは、このワクチンが認可され、その使用が奨励されるようになれば、ワクチンを必要とする人々に提供することを計画している。2010年1月、GSKは、RTS, S (Mosquirixの商標名で知られる) の最終的な価格を、ワクチン製造コストに5%前後の利益を乗せる程度にすることを発表した。また、この5%の利益は次世代マラリア・ワクチン研究開発または、これまで本格的に治療法が開発されなかった熱帯病のワクチン開発に充てられる。

RTS, Sは、マラリア・ワクチン候補に与えられた科学的名称で、このワクチン候補の化学式を表している。RTS, Sは、Plasmodium falciparum (マラリア原虫) が人間宿主の血流に入り込むか、肝細胞に感染した時に免疫系が刺激され、マラリア原虫の駆除効果が発揮される事を目的としている。マラリア原虫は、感染すると肝臓に入り込み、そこで成長し、増殖する。その後、再び血流に入り込み、赤血球に感染し、マラリア特有の症状を引き起こす。臨床第III相試験で、RTS, Sは1か月ごとに3回に分けて投与した。3回目の投与から18か月後にさらにブースターを投与するが、臨床治験ではこのブースターの結果も研究対象にした。

このワクチンは、ニューヨーク大学のルート・ヌッセンツバイク、ビクトル・ヌッセンツバイク両博士の研究室で始めて同定されたタンパク質を基にして、1980年代後半にベルギーのGSK Vaccinesの研究室で発明、開発、製造された。その後、アメリカ国内でUS Walter Reed Army Institute of Researchの協力でボランティアを対象に初めて治験が行われた。
2001年に、MVIがGSKと提携し、このワクチン候補がサブサハラ・アフリカの乳幼児を守ることができるかどうかの研究が始められた。歳月を経るうちに、アフリカの11の研究所が参加するなど次第に提携も広がり、ヨーロッパやアメリカの関連科学機関も参加するようになった。

MVIは、ビル&メリンダ・ゲーツ財団の2億米ドルを超える助成金を受け、経済、科学、管理、現場などの専門的知識を活かし、RTS, Sの開発に貢献している。GSKは、RTS, Sの開発全体を主導し、これまでに3億米ドルを超える投資を行ってきた。また、今後プロジェクトの完了までにさらに2億米ドルを投資すると見られている。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:RTS,S Candidate Vaccine Reduces Malaria by One-Third in African Infants

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