Information Genomique et Structurale laboratory (CNRS/AMU)、Biologie a Grande Echelle laboratory (CEA/INSERM/Universite Joseph Fourier)、Genoscope (CEA/CNRS)、Russian Academy of Sciences合同の研究チームがシベリア最北東部で永久凍土の中から「ピソウイルス」と名付けられた巨大ウイルスの新種を発見した。

 

ヒトや動物には無害と判断されているこの巨大ウイルスは地中に埋もれたまま3万年以上も凍土の中で生き延びてきたもので、そのサイズや古代の陶製広口壷に似た形からパンドラウイルスを思わせるが、ゲノムや複製メカニズムの解析からピソウイルスはパンドラウイルスとは全く異なることが証明されている。

この研究の結果、巨大ウイルスの科が3つになった。この発見は2014年3月3日付PNASオンライン版に掲載されている。

これまで、メガウイルス科 (2003年に発見されたミミウイルスがその代表) とパンドラウイルス科の発見で、様々な巨大ウイルス (いずれも直径が0.5ミクロンを超えるため、光学顕微鏡でも識別できる数少ないウイルス) をすべて分類できたと考えられていた。この種のウイルスはアカントアメーバなどのアメーバに感染し、一般的なウイルス (遺伝子10個程度のインフルエンザやAIDSのウイルス) に比べるとかなり多数の遺伝子を持っている。そのゲノムは細菌のほとんどと比べても同じ規模かあるいはもっと大きいことがある。研究チームはシベリア北東端にあるチュクチ自治管区の永久凍土層で採取したサンプルを調べていて、3万年以前 (ネアンデルタール人が絶滅した時期) の巨大ウイルスの新種を発見、彼らはそのウイルスを「ピソウイルス・シベリカム」と命名した。


当初、研究チームは、そのウイルスがパンドラウイルスと同様古代の陶製広口壷に形が似ていることから、パンドラウイルス科の古代新種かと考えた。ところがピソウイルスのゲノムを解析したところ、ピソウイルスとパンドラウイルスの間には遺伝子的な関係がないことが判明した。ピソウイルスはウイルスとしては大きいが、そのゲノムの遺伝子は500個程度で、パンドラウイルス・ゲノムの2,500個に比べるとかなり少ない。また、ピソウイルス粒子 (1.5ミクロン長、0.5ミクロン幅) のタンパク質構成 (プロテオーム) を分析した結果、何百種もあるタンパク質のうち、パンドラウイルス粒子と共通するのは一つか二つ程度だった。この2種類のウイルスのもう一つの基本的な違いはアメーバ細胞内で自分を複製する手順にある。パンドラウイルスは自己複製のためにアメーバ細胞核の機能を利用しているのに対して、ピソウイルスではほとんど感染したアメーバ細胞の細胞質 (細胞核の外) で増殖が進むことから、DNAの大きいメガウイルス科のウイルスなどと挙動が似ている。面白いことに、ピソウイルスはパンドラウイルスに比べてゲノムが小さいにもかかわらず、その増殖過程でアメーバの細胞機能にはあまり頼っていないのである。したがって、巨大ウイルスの宿主細胞からの相対的独立性はゲノムのサイズと相関しておらず、また、ゲノムの大きさもそのウイルス粒子の大きさとは無関係といえる。

ピソウイルスを綿密に分析した結果、これまでに特性が明らかにされた巨大ウイルスのどれともほとんど共通点がないことが明らかになった。これが独自に新しい科を持つウイルスと判定された理由であり、これまでに知られている巨大ウイルスの科も3つめを数えることになった。パンドラウイルスと、それに次いで発見されたピソウイルスがいずれも古代の陶製広口つぼに似た形をしているということは、もっとも一般的な正二十面体と同じように、この形のウイルスも様々な種があることを示している。このことは、新しい環境を探る際に微小世界の生物多様性に対する私たちの理解がどれほど不完全かということを見せつけている。

最後に、この研究で、ウイルスが (後期更新世に相当する) 3万年以上もの間、北極地域で見られる永久的凍土層でも生存できることを証明した。これらの研究結果は、地球温暖化が進んだ場合、北極周辺地域の鉱業・エネルギー資源開発の際に重大な公衆衛生問題が起きる可能性を示している。天然痘ウイルスの自己複製過程はピソウイルスによく似ており、将来、もう根絶したと考えられているこの伝染病が再び出現し、猛威を振るうというのはサイエンス・フィクションの世界ではなく、現実に起こりえることである。このようなシナリオが起きる確率をリアルに推定しなければならない。France-Genomique infrastructureのサポートを受け、国家的な「Investments for the Future」プログラムの一環として設立された「Information Genomique et Structurale」研究所は、すでに永久凍土のメタジェノミクス研究を通してこの問題に取り組んでいる。

写真は、ピソウイルス・シベリカム断面の透過型電子顕微鏡カラー画像。このウイルス粒子は3万年以前から存在し、長さ1.5ミクロン、幅0.5ミクロン。これまでに発見されたウイルスの中では最大。(写真提供: Julia Bartoli & Chantal Abergel, IGS, CNRS/AMU).

■原著へのリンクは英語版をご覧ください: 30,000-Year-Old Giant Virus Found in Siberia

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