カリフォルニア州のスクリプス研究所(The Scripps Research Institute)の研究者が中心になって進めた動物モデルでの新しい研究の結果、強迫性飲酒の衝動を止める方法が見つかるかもしれない。この研究を指導したスクリプス研究所のAssistant Professor、Olivier George, Ph.D.は、「神経回路網を標的にする研究でアルコール依存症を完全に消滅させることができた」と述べている。

 


2016年9月7日付The Journal of Neuroscienceに掲載されたこの新研究は、頻繁な飲酒で特定ニューロン・グループが活性化されるという過去の研究結果に基づいており、論文は、「Recruitment of a Neuronal Ensemble in the Central Nucleus of the Amygdala Is Required for Alcohol Dependence (アルコール依存症に必要とされる扁桃体中心核の神経アンサンブルの漸増)」と題されている。

アルコールは飲めば飲むほど神経回路の活性化を強化し、それがさらにアルコール飲用をうながし、依存症へと進む。いわば、脳がアルコールと報酬の間の特別な経路を深く刻んでいくようなのである。この新しい研究で、研究チームは、このような回路を形成する特定ニューロンにだけ影響する方法があるかどうかを調べた。人間でもラットでも、このようなニューロンは、脳の扁桃体中心核のニューロンの5%程度を占めているに過ぎない

この研究の第一著者を務めたスクリプス研究所のResearch Associate、Giordano de Guglielmo, Ph.D.は、アルコール依存症のラット・モデルでの研究を指導したが、このラットはアルコールで活性化されたニューロンだけを識別する特殊なタンパク質を発現するようにつくられている。人間の脳の場合にはタンパク質ラベルを使わずにアルコール関連ニューロンを突き止めることはより困難だが、ラットの研究から人間の脳の中で神経回路がどのように形成されるのかを理解する手がかりが得られた。


この実験ではラットにアルコール関連ニューロンのみを不活性化する化合物を注入した。Dr. Georgeは、「すると、ラットの強迫性飲酒がぴたりとおさまったのには驚いた。ラットの観察が終わるまでその状態が続いていた。何週間も続くような強力な効果はそれ以外には見たことがない。信じていいのかどうかさえ分からなかった」と述べている。研究チームは同じ実験を3度まで繰り返した。その度にラットの強迫性飲酒はぴたりと止まった。

Dr. Georgeは、「ラットが自分はアルコール依存症だったということを忘れたかのようだった」と述べている。興味深いことに、ラットは砂糖水を飲む意欲は残っており、脳の報酬系全体には手をつけず、まさしくアルコール活性化ニューロンだけを標的にできたことを示している。しかも、ラットは、振顫などアルコール離脱時の不快な身体症状も体験しないようだった。さらに、その研究では一時的ながぶ飲みと依存的な飲酒の時の脳の働きの違いにも光を当てた。

非依存性飲酒のラット・モデルでは、アルコール関連ニューロンをスイッチオフしてもその後の飲酒にはほとんど何の影響もなく、新たに他のニューロン・グループをスイッチオンするだけで、アルコールから報酬系までの脳の経路がまだ確立されていないかのようだった。研究チームは、「次のステップは、時間を追ってアルコール活性化神経回路形成の過程を追跡することと、この研究を人間にあてはめる方法を見つけることだ」としている。Dr. de Guglielmoは、「脳の中のごく少数のニューロンを標的にすることは非常に難しいが、同時にまだまだ謎の多い脳の一部でも知見を増やすためには、この研究が役立った」と述べている。

この研究の著者には、Dr. George、Dr. de Guglielmoの他にも、スクリプス研究所のElena Crawford、Sarah Kim、 Leandro F. Vendruscolo、Molly Brennan、Maury Coleや、National Institute of Health (NIH), National Institute on Drug Abuse (NIDA) のBruce T. Hope、さらに、現在はNIHのNational Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA) のdirectorを務めるためにスクリプス研究所を離れているGeorge F. Koobの各氏が名前を連ねている。

写真は、Dr. George (左) とDr. de Guglielmoの両氏。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Alcohol Dependence Reversed in Animal Models by Targeting Key Network of Neurons in Central Nucleus of Amygdala

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