認知症、依存症、統合失調症……脳の「老化スピード」は病気ごとにこんなに違う

「歳を重ねれば脳も老いる」というのは当たり前のようですが、その老化のスピードが、どんな病気を抱えているかによって大きく異なることをご存知でしょうか。中国とアメリカの国際研究チームが、実に4万9千人近い脳MRIデータを解析し、9つの代表的な神経疾患における脳の「老化パターン」を徹底的に比較しました。認知症では脳が大きく老け込む一方、発達障害ではほとんど老化の加速が見られなかったという、興味深い結果が明らかになっています。

神経画像から予測される「脳年齢」と実年齢との差(PAD: Predicted Age Difference)は、脳の健康状態を映し出すバイオマーカーとして注目されてきました。これまでも様々な脳疾患で脳年齢の加速が報告されてきましたが、多くの疾患を統一した枠組みで比較し、その背景にある脳内パターンや遺伝子発現との関連まで踏み込んだ研究はほとんどありませんでした。

今回、南京航空航天大学 人工知能学部のチュアン・リャン(Chuang Liang)氏と、米国コネチカット州ハートフォードにあるインスティテュート・オブ・リビング(Institute of Living)のゴッドフリー・パールソン博士(Godfrey Pearlson, PhD)が共同筆頭著者を務め、南京航空航天大学のシーレ・チー博士(Shile Qi, PhD)を責任著者とする国際研究チームが、学術誌PLOS Medicineに「Brain aging patterns among nine neurological disorders: A case-control study(9つの神経疾患における脳老化パターン:症例対照研究)」と題した論文を発表しました。

4万9千人規模のデータで9つの疾患を横断比較

研究チームは、健常者45,900名分と患者2,698名分の構造MRIデータを収集し、HCP、GSP、UKバイオバンク(UKB)、ADHD-200、ABIDE、ADNIといった公開データセットに加え、TReNDSセンター(米ジョージア州立大学ほか)が保有する精神疾患・依存症の非公開データも組み合わせました。

対象とした9疾患は、以下の4カテゴリーに分類されます。

  • 発達障害:注意欠陥・多動性障害(ADHD: Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)、自閉スペクトラム症(ASD: Autism Spectrum Disorder)
  • 依存症:アルコール使用障害(AUD: Alcohol Use Disorder)、タバコ使用障害(TUD: Tobacco Use Disorder)、両者の併発(A&TUD)
  • 認知症関連:アルツハイマー病(AD: Alzheimer's Disease)、軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)
  • 精神疾患:統合失調症(SZ: Schizophrenia)、双極性障害(BP: Bipolar Disorder)、大うつ病性障害(MDD: Major Depressive Disorder)

脳年齢予測モデルを用いてPADを算出し、年齢・年齢の2乗・性別・データ取得siteを調整した線形モデルで、患者群と健常群の差をコーエンのd(効果量)として比較しました。

脳老化が最も加速していたのは認知症、次いで依存症

解析の結果、ほぼすべての疾患で患者群のPADは健常群より有意に高く、脳老化の加速が確認されましたが、その程度は疾患によって大きく異なりました。

  • 認知症関連が最も顕著:アルツハイマー病(d=0.97、95%信頼区間 [0.82, 1.13]、p<0.001)、軽度認知障害(d=0.45 [0.34, 0.56]、p<0.001)
  • 依存症も大きい効果量:AUD+TUD併発(d=0.84 [0.44, 1.23])、TUD(d=0.72 [0.49, 0.96])、AUD(d=0.62 [0.39, 0.84])(いずれもp<0.001)
  • 精神疾患は中程度:統合失調症(d=0.53 [0.30, 0.76])、双極性障害(d=0.46 [0.22, 0.69])、大うつ病性障害(d=0.28 [0.11, 0.46])(いずれもp<0.001)
  • 発達障害は有意差なし:自閉スペクトラム症(d=0.06、p=0.36)、ADHD(d=0.01、p=0.98)

脳内のパターンを見ると、前頭前野(prefrontal cortex)の関与はほぼすべての疾患に共通していました。一方で、精神疾患では前頭―側頭ネットワーク、依存症ではデフォルトモードネットワークと被殻・視床を含む回路、認知症では前頭―後頭ネットワークというように、疾患ごとに特徴的な脳領域のパターンも見られました。さらに、こうしたパターンに関連する遺伝子群は、疾患ごとに異なる生物学的プロセスに富んでいることも分かりました。

「脳老化時計」は疾患ごとに異なるシグネチャを残す

研究チームは、プレスリリースの中で次のように述べています。「異なる神経疾患は、脳の老化時計に異なるシグネチャを残すようです。これにより私たちは、それぞれの疾患に関わる神経・生物学的な経路をより深く理解できるかもしれません」(シーレ・チー博士)。

今回の結果はあくまで相関関係を示すものであり、疾患同士の併存(例えば依存症と精神疾患の重複)の影響は今後さらに検証する必要があるといいます。それでも、脳年齢の加速パターンと疾患特異的な脳内ネットワークの組み合わせは、将来的に診断や予後予測、治療効果のモニタリングに役立つバイオマーカーとなる可能性を秘めています。前頭前野という共通項が、老化に伴う脳の脆弱性を理解する鍵になるのかもしれません。

[News release] [PLOS Medicine article]

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