新緑の山々や野原を散策する機会が増える季節、草むらに潜むダニへの警戒が欠かせません。なかでも近年、致死的な症状を引き起こす新規のダニ仲介性ウイルスが報告され、感染拡大への懸念が高まっています。しかし、ウイルスが体内でどのようにして肝臓を破壊し、命を脅かす重症化をもたらすのか、その詳細なメカニズムは謎に包まれていました。

今回、中国農林科学学院のチャオジエ・ワン(Chaojie Wang)博士、ハオ・リー(Hao Li)博士らの研究チームは、新興のダニ仲介性オルソナイロウイルスであるウェットランドウイルス(WELV: wetland virus)が致死的な肝障害を引き起こす分子メカニズムを解明しました。本研究成果は、科学誌『Cell』に掲載された論文「Gasdermin E couples viral pyroptosis to lethal hepatic lipid accumulation(ガズダーミンEはウイルス性パイロトーシスを致死的な肝脂質蓄積に結合させる)」にて発表されました。

ウイルス感染が引き起こす「細胞の爆発」と「脂質の過剰蓄積」

ウェットランドウイルス(WELV)をはじめとするマダニが媒介するオルソナイロウイルス感染症は、重篤な出血熱や多器官不全を引き起こすことが知られています。研究チームはマウスモデルを用いてWELV感染時の病態を詳細に解析しました。

その結果、ウイルスのRNAが細胞内の異物センサーである「RIG-I」によって認識されると、細胞死を実行するプロテアーゼであるカスパーゼ-3(CASP3)やカスパーゼ-8(CASP8)を介して、細胞死を誘導するタンパク質「ガズダーミンE(GSDME: gasdermin E)」が切断・活性化されることが判明しました。切断されたN末端GSDMEは細胞膜に孔をあけ、細胞内容物を放出して強い炎症を引き起こす「パイロトーシス(pyroptosis)」と呼ばれる炎症性細胞死を誘導します。

それだけではありません。活性化したGSDMEは脂肪酸の合成を司る主要な酵素である「脂肪酸合成酵素(FASN: fatty acid synthase)」に直接結合します。GSDMEはFASNの分解シグナル(K48結合型ユビキチン化)を阻害してFASNを安定化させ、肝細胞内にトリグリセリド(中性脂肪)などの脂質を異常に蓄積させます。つまり、GSDMEは細胞破壊(パイロトーシス)と代写のリプログラミング(重度の脂肪肝)を同時に推し進める「二重の悪者」として機能していたのです。

GSDMEノックアウトと既存薬が示す高い治療効果

このメカニズムを証明するため、研究チームがGSDME遺伝子をノックアウト(欠損)させたマウスにWELVを感染させたところ、パイロトーシスと肝臓の脂質代謝異常の両方が完全に消失し、致死的な感染に対して100%の生存率という完璧な保護効果が観察されました。

さらに臨床応用への可能性を探るため、臨床で承認されているカスパーゼ阻害薬やFASN阻害薬(オルリスタットやウルソデオキシコール酸など)を感染マウスに投与したところ、肝臓の脂質蓄積と病理的損傷が顕著に軽減され、生存率が大幅に改善することが実証されました。

 

まとめと今後の展望

本研究は、ウイルス感染による「炎症性細胞死(パイロトーシス)」と「脂質代謝の異常」を結びつける新たな「パイロトーシス-代謝軸」の存在を世界で初めて明らかにしました。

GSDMEを中心としたこの分子経路の解明は、ダニ仲介性オルソナイロウイルス感染症における致死的な肝障害の病態理解を著しく進展させました。今後、GSDMEやFASNを標的とした抗ウイルス治療薬の開発が進むことで、WELVを含む致死性ウイルス感染症に対する革新的な治療法や重症化予防策の確立が期待されます。

https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674%2826%2900809-3

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