生細胞におけるタンパク制御機構の最も重要なメカニズムについて、アメリカ・エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所(バークレー研究所)とカルフォルニア大学(UC)バークレー校とが、新たな研究成果を発表した。プロテアソームとして知られるタンパク質は、除去するようにマーキングされたタンパク質類を、同定し破壊する機能を有している、タンパク制御装置とも言える物質である。研究チームは、そのメカニズムに使用されている「制御因子」に至るまで、詳細な解析を行なった。

 


この制御因子によって調節される活性は、細胞内タンパク質の品質制御だけでなく、DNA転写、DNA修復、免疫防御システムなどを含む広範な生命活動にとって、極めて重要な役割を担っている。
「電子顕微鏡によるイメージングと、タンパク翻訳を解析する最新の装置とによって、サブナノメーターレベルの計測が可能になりました。その技術を用いれば、プロテアソームを制御する因子であるタンパク複合体の相対的な結合位置を含む、詳細な構造が分かるようになりました。」と研究チームの共同主席研究員で生物物理学者であるエバ・ノガレス博士は語る。「これによって、プロテアソームがどのようにして不要なタンパクを認識し破壊するのかを、そして細胞内に存在するどのようなタンパクでも調整する機能を、分子構造の観点から解析できるようになりました。」と、もう一人の共同主席研究員で論文責任著者である生化学者アンドレアス・マーチン博士は説明する。


そして「プロテアソームの生化学的機能の多くと、サブナノメーターレベルの分子構造も既に研究はされているのですが、まだ不明な部分が多く、これまでは、どのタンパクユニットがどこへ行き、どのユニットと相互作用を持つのかは分かっていませんでした。今回の研究結果によって、プロテアソームの持つタンパク制御装置としての機能をより詳しく解明することが出来ました。つまり、細胞生物学的なプロセス解明によって、プロテアソームの活性を操作することで、がんや他の疾病の新しい治療法の研究が出来るようになったのです。」と補足する。

ノガレス博士はUCバークレー研究所とハワード・ヒューズ医学研究所とを兼任し、マーチン博士は、UCバークレー研究所とQB3研究所とを兼任しており、上席著者として本研究成果を、ネイチャー誌の2012年1月11日版に発表した。他の共著者は、ガブリエル・ランダー博士、エリック・エストリン、マリー・マチスキーラ、チャーレン・バショウ等である。ヒト細胞は、どんな時でも凡そ10万種の異なるタンパク質を内包し、細胞自体の維持のために、必要なタンパクの生産と廃棄を繰り返している。不要なタンパク質には、「ユビキチン」と呼ばれるポリペプチドが「廃棄行き」を意味する標識として結合する。ユビキチンで標識されたタンパク質は、細胞内に凡そ30,000個存在するプロテアソームのどれかに移送される。プロテアソームは樽のような形状で、廃棄するタンパクユニットを速やかに破壊或いは損壊する。2004年のノーベル化学賞は、プロテアソームの機能プロセスを最初に記述した3人の科学者に贈られたが、分子構造的情報を欠いていたために、この機能プロセスの背景にある科学的な理解には限界があった。タンパク質複合体が、細胞生物学的プロセスの品質制御だけでなく、幅広い生化学的生命活動の中核であることを新たに解明したのは、ガブリエル・ランダー博士、エリック・エストリン、マリー・マチスキーラ、そしてエバ・ノガレス博士らの研究チームであった。

ノガレス博士は電子顕微鏡とイメージ解析の専門家であり、新規的なタンパク質の翻訳機構の解析システムを開発し、それらは本研究で大いに活用された。そして、イースト菌を用いてプロテアソームの制御因子の研究を行なっていた各々の研究グループとの共同研究に、それらの技術は適用された。その制御因子は、19個のタンパク質サブユニットによって構成されており、全体としては「蓋」部分と「本体」部分の2つの複合体として形成される。蓋部分は、タンパク質の破壊指令の標識であるユビキチンの同定を司る制御因子である。本体部分は、六角形構造をしており、その内部に破壊するタンパク質を引き込む樽のような形状をしている。「蓋部分は、ユビキチン受容体を含む9個の非ATPアーゼタンパク質によって構成されており、ユビキチン受容体は適切に標識されたタンパク質の選別機能は高いのです。プロテアソームによって破壊されるように標識されていないタンパク質には反応しません。」とノガレス博士は話す。そして「タンパク質の破壊は不可逆性ですから、ユビキチンに標識されたタンパク質だけが、プロテアソームによって破壊されねばなりません。興味深いことに、ユビキチン標識は、タンパク質がプロテアソームの”タンパク質破壊室”に移送される前に、脱着されなければなりません。ですから蓋の部分には脱ユビキチン化酵素が含まれており、タンパク質がプロテアソームに認識された後には、ユビキチン標識は外れてしまうのです。」と説明する。

プロテアソーム制御因子の底部には、独立した6個のAAA+ATPアーゼがヘテロ6員環を構成しており、プロテアソームの分子モーターとして機能している。「私たちが予測しているのは、ATPアーゼ類がATP結合と加水分解のエネルギーを活用し、認識したタンパク質を引き込み、折り畳み構造を解いてから小さな中央部の細孔を通して、タンパク質を破壊室に移送するということです。」とマーチン博士は説明する。「タンパク質認識に始まり、脱ユビキチン化とタンパク質の破壊へと進むプロテアソームの機能プロセスのステップは、時間的にも空間的にも大変高度に制御されています。全ての因子が正確に配置され、関連する作用機序が正確に認識されるには、各々のプロセスがきちんと関連付けられているという事です。」と付け加える。

ノガレス博士は、マーチン博士とそのチームによって開発されたタンパク質翻訳解析システムに、絶大なる信頼を置いている。このシステムでは目的のタンパク質はバクテリア内で発現翻訳、生合成され、本研究遂行の中核技術となっている。「これまでは、細胞から抽出・精製したタンパク質複合体を使用するしかありませんでした。直接操作したり、修飾処理をしたりすることは不可能でした。」と博士は話す。そして「アンディ・マーチン博士が開発したヘテロジニアスタンパク質翻訳解析システムによって、たんぱく質の操作や詳細な解析が可能になりました。私たちの研究では、蓋部分の複合体を生合成することが課題でした。蓋部分は、構成要素の各々のタンパク質サブユニットが反応するマーカーを有していたからです。新しい解析システムによって、タンパクユニットを切断したり、除去したり融合させたりする事によって、蓋部分を構成する個々のサブユニットの場所決めや、境界線の決定などが可能となったのです。」と述懐する。

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