自然に高い免疫防御を持つ人々の秘密—ウメオ大学の研究が個別化治療への道を拓く
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、自然に高い抵抗力を持つ人々がいることをご存じでしょうか?スウェーデンのウメオ大学(Umeå University)で行われた新たな研究によって、一部の人々が 特定のタンパク質を高レベルで持つことで、ウイルスの侵入を防いでいる ことが明らかになりました。この発見は、新型コロナウイルスだけでなく、自己免疫疾患やウイルス性脳疾患の個別化治療の開発につながる可能性があります。本研究を主導した イオヌツ・セバスチャン・ミハイ氏(Ionut Sebastian Mihai) は、ウメオ大学と産業博士課程において、免疫システムがどのように機能するのかを分子レベルで探求しました。彼の研究成果は、病気の治療法を根本から変えるかもしれません。
新型コロナウイルスを防ぐ「ゲートキーパー」タンパク質
ミハイ氏の研究の中で特に注目されたのが セーピン(serpin) というタンパク質です。これは、SARS-CoV-2が人間の細胞へ侵入するのを防ぐ働きを持つことが判明しました。驚くべきことに、一部の人は 自然にこのタンパク質のレベルが高く、ウイルスに対する抵抗力を持っている のです。
「これらのタンパク質は、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ“門番”のような役割を果たします。この発見を応用すれば、他の人々の免疫防御機能を高める新しい治療法の開発につながるかもしれません。」とミハイ氏は語ります。
セーピンは、ウイルスが細胞へ侵入する際に利用する 特定の酵素 を阻害することで、感染を防ぎます。この酵素の活性を抑えることで、ウイルスが細胞に取り付くのをブロックできるのです。特に 肺細胞内のセーピン濃度が高い人は、新型コロナウイルスに対する耐性が高い可能性がある ことが示唆されました。
この発見を活用すれば、セーピンの機能を強化する治療法が開発され、新型コロナウイルスをはじめとする感染症に対する 個別化医療 へと発展する可能性があります。
免疫システムの「司令官」—T細胞の役割を解明
免疫システムは、さまざまな役割を持つ細胞が協力し合う 複雑な防御システム です。その中で、T細胞と呼ばれる 白血球の一種 は、感染症と戦う際の 司令官(コマンダー) のような役割を果たします。
ミハイ氏は、T細胞の成長と働きを調節する 重要な遺伝子因子 を特定しました。これらの因子が 免疫システムを活性化する だけでなく、 過剰に反応しすぎた場合には抑制する という重要な役割を担っていることが分かりました。
「DNAやRNAレベルでT細胞の機能を理解することで、免疫システムを強化するワクチンや治療薬を開発できるだけでなく、過剰な免疫反応を抑えることも可能になります。」とミハイ氏は語ります。
自己免疫疾患の新たな治療法への可能性
この研究の成果は、自己免疫疾患の治療にも応用できる可能性があります。 自己免疫疾患 とは、本来 外敵から体を守るはずの免疫システムが、自分自身の細胞を攻撃してしまう病気 です。例えば、多発性硬化症(MS)や関節リウマチ(RA)などが挙げられます。
ミハイ氏は、 遺伝的要因 と 環境要因 の相互作用が、免疫システムの異常を引き起こすメカニズムを研究し、 個人の免疫特性に合わせた治療法の開発 につながる可能性を示しました。
「免疫システムが誤作動を起こし、自己を攻撃してしまう病気 に対して、この研究は大きな希望をもたらします。免疫を適切に調節できれば、自己免疫疾患だけでなく、難治性の感染症や特定のがん治療にも応用できるでしょう。」とミハイ氏は語ります。
ウイルス性脳疾患の発症メカニズムを解明
さらに、ミハイ氏の研究は 脳内でのウイルス感染の拡散メカニズム にも焦点を当てました。彼は、ウイルスが どのように免疫システムのシグナルを利用して、感染を広げるのか を解明しました。
この発見は、ウイルスによる脳感染症を予防・治療する新たな方法の開発 に貢献する可能性があります。脳炎や神経疾患を引き起こすウイルスに対する新たな治療戦略が生まれるかもしれません。
今後の展望—個別化医療の時代へ
ミハイ氏の博士研究は、産業博士課程(Industrial Doctoral School) の支援を受け、ウメオ大学と Sartorius Stedim Data Analytics によって資金提供されました。
本研究は、 「一律の治療法」ではなく、患者一人ひとりの免疫システムに応じたオーダーメイドの治療を可能にする」 という大きなビジョンを持っています。感染症、自己免疫疾患、がん、さらには神経疾患に至るまで、この研究が示した 「免疫システムを適切に制御する」 というアプローチは、未来の医療を根本から変えるかもしれません。
画像:セルピン分子の2つの図



