土の中に潜む目に見えない脅威が、私たちの健康を密かに脅かしているかもしれません。アメリカの特定の地域では、土壌に生息する真菌(カビ)による深刻な感染症が、健康な人から免疫力が低下した人まで多くの人々を苦しめています。しかし、最大の課題はその「診断の遅さ」にありました。これまでは原因を突き止めるまでに数週間を要することもありましたが、このたびインディアナ大学の研究チームが、その常識を覆す画期的な検査法を開発しました。

 深刻な真菌感染症をより速く、正確に。早期治療を実現する新しい分子検査法

米国の一部の地域では、特定の環境、特に土壌への曝露に関連した深刻な真菌感染症が発生しています。これらの感染症は、健康な人にも免疫不全の患者さんにも影響を及ぼしますが、適切な診断には時間がかかるため、治療の開始が遅れてしまうことが少なくありません。

現在、診断の「ゴールドスタンダード(標準的な手法)」とされているのは真菌の培養ですが、これには数週間かかる場合があります。また、抗原を調べる検査は特異性に欠け、血液中の抗体を調べる検査は発症初期には信頼性が低いことが多いのが現状です。

こうした中、インディアナ大学(IU)ヘルスおよびインディアナ大学(IU)医学部の研究チームは、3つの主要な病原性真菌を一度に、しかも従来の方法よりもはるかに短時間で検出できる新しい分子検査法を開発しました。この研究成果は、ボストンで11月11日から15日にかけて開催された分子病理学会(AMP: Association for Molecular Pathology)の2025年年次総会・展示会で発表されました。

インディアナポリスにあるエスケナージ・ヘルスの臨床微生物学ディレクターであるケネス・ガビナ博士(Kenneth Gavina, PhD)は、IU医学部を通じてこのプロジェクトを統括しました。ガビナ博士のチームが標的としたのは、毎年数千人が感染し、しばしば他の呼吸器疾患と誤診され、特に免疫不全の患者さんにとっては生命を脅かす可能性がある以下の3つの真菌感染症です。

 

ヒストプラズマ症: 鳥やコウモリの糞を含む土壌を吸い込むことで発生する肺感染症です。オハイオ川やミシシッピ川の流域で多く見られます。

ブラストミセス症: 同じく肺感染症として現れますが、皮膚や骨、その他の臓器に進行することもあります。主に米国中部や南東部で発生します。

 

コクシジオイデス症(別名:渓谷熱): ほとんどの肺感染症は軽症ですが、中には重度の肺炎を引き起こしたり、全身に感染が広がったりする場合もあります。アリゾナ州、カリフォルニア州、ニューメキシコ州などの南西部の州を中心に発生します。

 

精度100%の革新的な検査技術

研究チームは、同じサンプルから複数の病原体を同時に検出できる「マルチプレックスリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR: Polymerase Chain Reaction)」検査を設計しました。

この検査は、各真菌に固有の3つの遺伝子領域(ヒストプラズマはITS1、ブラストミセスはBAD1、コクシジオイデスはA2/PRA遺伝子)を標的にしています。真菌の遺伝物質を直接検出することで、このPCR検査は、真菌が環境形態とヒト感染形態の間で変化するために複雑で時間がかかる「培養プロセス」を回避することに成功しました。

 このPCR検査の結果を標準的な臨床検査手法と比較したところ、すべてのテストサンプルにおいて100%の精度で同定されました。さらに特異性も100%であり、他の真菌や汚染物質を誤って検出することはありませんでした。

さらに、このワークフローでは、手間のかかるデオキシリボ核酸(DNA: Deoxyribonucleic Acid)の抽出ステップが不要になります。これにより、検査時間の短縮だけでなく、生きた病原性真菌を扱う際の検査室のリスクも軽減できる可能性があります。

ガビナ博士は、「このアッセイ(分析法)は、これまで迅速な検出が困難であった感染症において、検査時間の短縮と診断の信頼性を大幅に向上させる可能性を秘めています」と述べています。

重要な点として、このシステムは多くの臨床検査室ですでに導入されているプラットフォーム上で動作するため、非常に導入しやすいというメリットがあります。

「現在、さらなる臨床的な検証が進められていますが、このアッセイは真菌診断における大きな空白を埋める強力なポテンシャルを示しています」とガビナ博士は語ります。この手法は、臨床検体から直接、あるいは真菌培養からの確定診断として使用可能です。現在、臨床医がこれら3つの病原体に対して使用できる米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)承認の分子検査は存在せず、迅速かつ信頼性の高い検出法の確立が急務となっています。

この研究は、IU医学部の臨床病理学・検査医学の助教であるガビナ博士の指導のもとで行われました。11月14日(金)にボストンのトマス・M・メニーノ・コンベンション&エキシビション・センターで行われたポスター発表では、IUヘルスの医学検査科学者の一人であるカイリー・アレクサンダー(Kylee Alexander)氏によって、研究論文「Researchers develop a molecular method to identify the culprits faster than traditional methods, which could allow patients to start treatment sooner(研究者が従来の法法よりも迅速に原因菌を特定する分子手法を開発、早期治療開始が可能に)」の内容が紹介されました。

写真;ケネス・ガビナ博士(Kenneth Gavina, PhD)

[News release]

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