がん免疫療法の新たな手法として注目される「個別化ネオアンチゲンワクチン」。患者ごとの腫瘍に特有の変異由来抗原(ネオアンチゲン: neoantigen)を標的にするこのワクチンは、これまで主に悪性黒色腫などで試験されてきました。今回、米国ダナファーバーがん研究所(Dana-Farber Cancer Institute)の研究チームが、高悪性度卵巣がん患者を対象とした初めての個別化ネオアンチゲンワクチンの第1相試験の結果を報告しました。この研究成果は、2026年10月14日に『Nature Medicine』誌に掲載され、「Personalized neoantigen-targeting cancer vaccines in ovarian cancer: a phase 1 trial(卵巣がんにおける個別化ネオアンチゲン標的がんワクチン:第1相試験)」と題されています。
「NeoVax」とPD-1阻害剤の併用で安全性を検証
本試験で用いられたワクチン「NeoVax」は、患者ごとの腫瘍に特異的なネオアンチゲンを標的とする合成ロングペプチドのプール(遺伝子解析により同定)に、免疫刺激剤ポリICLC(poly-ICLC)を添加したものです。白金製剤を用いた標準治療後の、白金感受性卵巣がん患者10人(新規診断患者1人を含むコホートAと、初回再発患者9人のコホートB)にワクチンを接種し、さらに抗PD-1抗体(抗体精製技術により製造)を遅延併用しました。
コホートBでは評価可能な12人中9人(75%)がワクチン接種を完了し、コホートAでは9人中1人(11%)が完了しました。想定外の安全性の懸念は見られず、毒性による治療中止例もありませんでした。
本研究は、責任著者であるパナギオティス・A・コンスタンティノプロス博士(Panagiotis A. Konstantinopoulos, PhD)およびキャサリン・J・ウー博士(Catherine J. Wu, PhD)の共同主導のもと、マクリーン・C・セラーズ(MacLean C. Sellars)、ジェシカ・A・フランク(Jessica A. Frank)らによって実施されました。
標的抗原は長期間にわたり検出可能
ワクチンは1人あたり中央値14個(範囲7〜15個)の変異を標的として設計されました。診断生検からワクチン接種までの期間は中央値6.5ヶ月に及び、その間標準治療の化学療法が行われましたが、選択された標的抗原の70%以上が、非侵襲的な血液中循環腫瘍DNA(cfDNA: cell-free DNA)解析により接種時点でも検出可能でした。
6割の患者でワクチンによる免疫応答を確認
バイオマーカー解析(細胞解析)では、10人中6人でワクチンの生物学的な活性を示唆する所見が得られ、血液および腫瘍組織における広範な腫瘍特異的・ワクチン特異的な免疫応答の増強と関連していました。一方で、治療に抵抗性を示した腫瘍クローンでは、抗原提示に関わる多様な変化が見られ、ワクチンによる免疫学的な選択圧がかかっていることが示唆されました。全体として、腫瘍が提示する抗原のレパートリーと、誘導された免疫応答の広さとの相互作用が、ワクチン接種後の臨床効果を左右しているとみられます。
無増悪生存期間(PFS: progression-free survival)は患者間で大きなばらつきがみられました(中央値3.3ヶ月、範囲1ヶ月〜未到達)。研究チームは、このワクチン療法を初回治療や微小残存病変の段階など、より早期のタイミングで用いることで、さらに大きな効果が期待できる可能性があると指摘しています。
本試験は米国国立衛生研究所の臨床試験データベース(ClinicalTrials.gov識別子:NCT04024878)に登録されています。
