NK細胞のブレーキを外す:PTPN1とPTPN2の二重阻害
学術誌EMBO Reportsに掲載された最新の研究論文「「PTPN1/PTPN2 inhibition improves NK cancer therapy by enhancing IL-2 and mitigating TGFB1 responses(PTPN1/PTPN2の阻害はIL-2を増強しTGFB1応答を緩和することでNKがん治療を改善する)」」 において、マギル大学のミシェル・L・トランブレ(Michel L Tremblay)博士らの研究チームは、NK細胞の機能を高める新しいメカニズムを解明しました 。
トランブレ博士らは、免疫細胞のシグナル伝達を負に制御する酵素であるタンパク質チロシンホスファターゼ(PTPN1およびPTPN2: Protein tyrosine phosphatases PTPN1 and PTPN2)に着目しました 。これらの酵素の遺伝子をサイレンシングするか、あるいは薬物を用いて二重に阻害(PTPN1/N2阻害)することで、試験管内(in vitro)および生体内(in vivo)の両方において、NK細胞の強力な細胞傷害活性が引き出されることが実証されました 。
活性化マーカーと攻撃分子の飛躍的な増加
PTPN1/N2を阻害されたNK細胞は、単に攻撃的になるだけではありません。研究チームは、FDA承認の治療用ヒトNK細胞株であるNK-92細胞において、早期活性化マーカーであるCD69やCD25の発現が顕著に増加することを確認しました 。さらに、がん細胞を破壊するための主要な武器であるグランザイムBやインターフェロンガンマ(IFN-γ: Interferon-gamma)、パーフォリンといったエフェクター分子の産生が大幅に促進されることが明らかになりました 。
IL-2への感度上昇とTGFβ1への耐性獲得
この驚くべき効果の裏には、NK細胞内のシグナル伝達の劇的な変化があります。PTPN1/N2の二重阻害は、NK細胞内のJAK/STATシグナル伝達経路を活性化し、細胞の生存と活性化に不可欠なサイトカインであるインターロイキン-2(IL-2: Interleukin-2)の刺激に対する感受性を大幅に高めます 。
さらに特筆すべきは、この強化されたNK細胞が、TMEによく見られる強力な免疫抑制因子であるトランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGFβ1: Transforming growth factor beta 1)に対して、実質的な耐性を獲得するという点です 。通常、TGFβ1はNK細胞の働きを鈍らせてしまいますが、PTPN1/N2を阻害したNK細胞は、この抑制環境下にあっても高い抗腫瘍効果を維持することが判明しました 。
難治性がん(膠芽腫・トリプルネガティブ乳がん)への応用
トランブレ博士らの研究は、基礎的なメカニズムの解明にとどまりません。マウスを用いた異種移植モデルにおいて、PTPN1/N2阻害を施したNK細胞療法が、極めて治療が困難とされる膠芽腫(グリオブラストーマ)や、転移性のトリプルネガティブ乳がん(TNBC: Triple-negative breast cancer)の腫瘍増殖を効果的に遅延させることが証明されました 。
さらに、実際の臨床応用を見据え、臍帯血由来のNK細胞を用いた実験も行われました 。その結果、PTPN1/N2の二重阻害は、患者由来の膠芽腫細胞に対する臍帯血NK細胞の細胞傷害活性を著しく高めることが確認され、将来的な「既製品」としてのNK細胞療法の有効性を飛躍的に向上させる強力な証拠となりました 。
本研究は、遺伝子改変を伴わずに薬理学的なアプローチのみでNK細胞のポテンシャルを最大化できる可能性を示しており、免疫抑制的な環境にある難治性がんに対する新たな治療戦略として、今後の臨床展開が強く期待されます 。
https://link.springer.com/article/10.1038/s44319-026-00745-0

