抗原性はあるが免疫原性をもたない低分子物質をハプテンといいます。なるべく多くの人に読んでもらいたい文章を書こうとするとき、このような導入法は NG ですね。冒頭の一文にある専門用語のうち一つでも理解しがたい言葉があったときは、続けて先を読む気がちょっと失せ、2つ以上あれば中断します。数多ある書物の中、ごくわずかのベストセラーが存在するのは、内容、書き方、それから世に出るタイミングが合致したときなのかなとつくづく感じます。

 

さて、最初の文に戻りましょう。ここで抗原性とは、産生された抗体と結合する能力を意味します。反応原性ともいいます。

一方、免疫原性は、動物に投与したときに免疫系を刺激する力、すなわち、抗体を産生したり T リンパ球の活性化を誘導する能力をいいます。

ここで単純に考えると、抗体を産生する能力がないのに出来上がってきた抗体と結合するなんて、そもそも抗体をどうやって作るのかという疑問が生じます。

実は、ハプテンを大きな分子にくっつければ抗体産生を誘導できるのです。大きな分子としては、軟体動物由来のヘモシアニン(KLH; Keyhole limpet hemocyanin)がよく使われます。低分子物質の抗体を作るときに免疫原性を獲得するための足場のような役割をするたんぱく質をキャリア(たんぱく質)と呼び ます。 ハプテンとキャリアの結合は基本的に共有結合がおすすめです。複合体形成の際にハプテンの抗原性に影響がないように工夫する必要があります。

例えば、ハプテンとしてペプチドを用いる場合、ペプチドの末端にアミノ酸を付加して、このアミノ酸の側鎖とキャリアを共有結合させます。結合には架橋剤が使われます。

ペプチドとたんぱく質を架橋する試薬は、アミノ酸の末端あるいは側鎖同士を結合させることになり、様々な架橋剤が手に入ります。官能基としては、リシンあるいは末端アミノ酸のアミノ基、酸性アミノ酸あるいは C 末端のカルボキシ基、そしてシステインの SH 基などです。

おすすめは比較的出現頻度が低いシステインの SH 基です。SH 基を利用した架橋には、MBS (m-maleimidobenzoyl N-hydroxysuccinimide)がよく使われます。

MBS は、SH 基とアミノ基を結合させる非対称の二価性架橋剤で、本来のたんぱく質をイメージした免疫原を作成するのに適しています。 ペプチドを化学合成する際に N 末端あるいは C 末端にシステインを入れます。どちらの末端にシステインを付加するかは、実際のたんぱく質分子で埋まっている側にシステインを入れて反対側の末端が分子の表面に位置するようにします。

例えば、N 末端に対する抗体をつくるときは、N 末端配列のペプチドの C 末端側にシステインを付加します。ちょうど良い位置に本来のたんぱく質配列に内在するシステインがあれば、それを利用しても構いません。ただし、末端に極めて近い位置に内在性のシステインがあったり、2個以上のシステインが存在するときは、この方法は使えないので、別のことを考えるか、ペプチドの分子設計をやり直す必要があります。

次にペプチドとキャリアを MBS でどうやって結合させるかです。まず、KLH を MBS と混ぜて両者の複合体を調製します。

ここで MBS は KLH のアミノ基と反応します。過剰量の MBS をゲル濾過で除き、MBSで修飾された KLH(MB-KLH) を回収します。これは分注して超低温下で保存可能です。MB-KLH とシステインを付加したペプチドを混ぜて反応させれば、ペプチドと KLH が MBS を介して 結合します。混ぜる割合はペプチドと MBS が等モルになりますが、ペプチド過剰で構わないです。途中の操作が少々煩雑ですが、こうやって調製した免疫原が抗体産生には適しています。

上記のような分子設計をせずに手持ちのペプチドをハプテンとして使いたいが、システインが入っていないときは、対称型の二価性架橋剤であるビスイミドエステルを使ってしまうことが多々あります。ビスイミドエステルはアミノ基同士を結合させる架橋剤で鎖の長さの違いで何種類か市販されています。反応はアミノ基フリーの弱アルカリの環境下で混ぜるだけで、MBS のような面倒な操作をしないので使ってみたくなるのかもしれません。

結論から言うと、MBS の方法と比較すると 抗体の出来に歴然とした差があり、勧められません。先に述べた、ペプチドの SH 基を結合に使えないときの選択肢の一つ程度にお考えください。それから、架橋試薬としてグルタルアルデヒドを使おうなどというのはもってのほかです。グルタルアルデヒドは抗原性に関わる官能基をことごとく潰してしまうからです。

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