電気泳動で分離した生体高分子をニトロセルロース、ナイロン、テフロンなどを担体とする膜に転写することをブロッティングと呼びますが、たんぱく質の転写にはウエスタンブロッティングという通称があります。たんぱく質の電気泳動は、ポリアクリルアミドを支持体とするゲルでおこなうことが多く、転写も電気的に移すエレクトロブロッティングになります。
たんぱく質用のブロッティング膜としては、昔はニトロセルロース膜が使われましたが、いまは強度や吸着量に優れた、テプロン系の PVDF(ポリビニリデンジフルオリド) 膜が主流です。そして、たんぱく質をブロッティングした膜に抗体をかけて、特定の抗原を抗体で染める技術がイムノブロッティングというわけです。
たんぱく質の電気泳動には、ドデシル硫酸ナトリウムを含む SDS-PAGE が手軽なので多用されます。SDS-PAGE は、たんぱく質分子をポリペプチド鎖の長さとおおよそ相関した移動度で分離します。
すなわち、長鎖のポリペプチドは遅く移動し、短い分子はゲルの先端近くへ早く動いていきます。このように分子サイズにしたがって分離した泳動パターンがそのまま膜に転写されるので、抗体の評価をおこなうにもイムノブロッティングはいたって便利なわけです。
SDS-PAGE を終えたポリアクリルアミドゲルは、転写する前にブロッティングバッファーで平衡化します。ブロッティングバッファーの組成は、SDS-PAGE の泳動バッファーとほぼ同じ Tris-グリシン(pH は8.2前後)を基本にして、これに SDS とメタノールを含みます。SDS はブロッティング装置の種類によって省いたりしますが、多くのラボで最近使われているセミドライタイプのブロッティング装置では0.1%(w/v)前後のの SDS を加えることが普通です。メタノールの濃度も可変ですが、標準は20%(v/v)です。これらの濃度は、ゲルから膜への転写効率に影響するので、特に微量の抗原を調べたいときは良い条件を選ぶことがポイントになります。以上のことは、一般の実験書にもよく書かれていることです。もうひとつ大事なことは、転写時の電流です。セミドライタイプのブロッティングでは初期の電圧になります。過大の電流が流れると一般に低分子量のたんぱく質ほど膜に保持されにくくなります。
しかし、電圧をさげてゆっくり転写すると高分子量のたんぱく質はあまり動いてくれず転写効率が極端に悪くなります。目的のたんぱく質がどの程度の大きさかによって条件を設定するのがよろしいでしょう。微量の抗原をイムノブロッティングで調べたいときに、バンドがうまく染まらないとむやみに大量のサンプルを SDS-PAGE にかけようとするかもしれません。もちろん、あまりにサンプル量が多いと泳動パターンが乱れてしまいますが、泳動が正常な範囲でもイムノブロッティングでは良いとは限らないです。というのは、ブロッティング膜には単位面積当たりの吸着容量というものがあります。膜に対して吸着容量を超えてたんぱく質を転写し続けると吸着が弱い(疎水性が低い)たんぱく質が剥がれていきます。
このことは、転写した膜を実際に抗体で染めてみるとわかります。非特異のバンドを含めて膜の表裏を抗体染色後に見比べてみて強く染まっている部分が裏側にあるときは要注意です。ここで膜の表側とは転写時にゲルに接している側です。
つまり、大過剰のたんぱく質を転写しようとしたために弱く吸着していたたんぱく質が追い出されているわけです。もしかすると大事な抗原たんぱく質はすでに外れてしまった可能性もあります。このように、ブロッティングひとつをとっても実験条件が多様になることがよくあり、一発で良い結果が得られるのは幸運と考えても良いでしょう。
