こんにちは! 質量分析屋の髙橋です。

前回までに、高分解能質量分析計を用いるメリットや、精密質量測定を行う際の質量校正等における注意点について少し解説しました。今回は、高分解能質量分析計を用いたLC/MSにより得られたデータ(マススペクトル)から目的イオンの正確なm/z値を取得し、組成推定を行うという過程における注意点やノウハウについて書いてみたいと思います。

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ただし今回の内容は、装置が適切な環境に設置されていて且つ正しく質量校正が出来ている状況にあることを前提にしています。

 

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1. イオン強度やピーク形状と質量確度の高さを確認する  図1に、ある分析種をLC/MS分析した際の抽出イオンクロマトグラム(extracted ion chromatogram, EIC)と3つの保持時間におけるマススペクトルイメージを示します。マススペクトルにおいて、黒線はバックグラウンドイオン、赤線は分析種イオンを示しています。時間軸に沿って分析種由来のイオン強度は変わります。マススペクトル①はEICピークの立ち上がりで観測されたものであり、分析種イオン強度は非常に低いことを意味しています。イオン強度が非常に低い場合、そのプロファイルはノイズがのったようになり、ソフトウエアがピークの位置を正しく判定できません。マススペクトル②のように適度なイオン強度の場合、そのプロファイルは正規分布に近い形状になり、高分解能マススペクトルではそのピーク幅も狭いので、ソフトウエアがピーク位置を正しく判定することができます。

また、マススペクトル③は分析種イオンの強度が大きすぎて、検出器のフルスケール(FS)を超えてしまっているイメージです。 最近はオートゲインコントロール機能のついたLC-MSが多いですが、それでもイオン強度が大きすぎてピーク位置を正しく判定できない場合はあります。私自身、お客様にLC/MS技術指導を行っている時、オートゲインコントロール機能のついた装置で、シグナルがFSを超えてm/z値がズレてしまったという経験があります。 「どの程度の強度範囲で確度の高いm/z値が得られるのか?」 実際に使っているLC-MSで、標準品等を測定して確認しておく必要があります。

2. スペクトルタイプはプロファイルモードで取得する  殆どの質量分析計では、測定時のマススペクトルタイプとして、profile (continuum)とcentroid (bar)を選択できるようになっています。profile (continuum)は、連続的にデータを取得するモードで、図1のようにイオンプロファイルの形状を確認することができます。centroid (bar)は、データ取得の段階でprofile (continuum)のピークの位置(重心やピークトップ)を決め、1本の棒状のデータに変換するモードで、イオンプロファイルの形状を確認することはできません。

profile (continuum)はイオンプロファイルの形状が分かるので、例えばノイズとシグナルの識別ができます。 profile (continuum)はcentroid (bar)に比べて測定データのサイズが圧倒的に大きくなるので、データを軽くしたいという理由からcentroid (bar)を使う人は結構いるようです。四重極質量分析計(Q-MS)やイオントラップ質量分析計(IT-MS)のような低分解能質量分析計でマススペクトルを確認する程度であれば、centroid (bar)でも良いですが、高分解能マススペクトルやMS/MSのマススペクトルを測定する場合には、centroid (bar)ではマススペクトルの質が分からないので、profile (continuum)で測定することをお勧めします。

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