標的疾患の臨床試料から抽出される「動的ネットワーク」を構成するタンパク質群に対する薬剤などのキネティックスが解析されれば、一気に疾患メカニズムと治療標的、候補薬剤の同定に迫ることが可能となります。

 

そこで、臨床プロテオミクスとメタボロームを基に、ネットワークバイオマーカーを実験的に証明する必要があり、それぞれのバイオマーカーの相互作用、言い換えるとプロテインープロテイン相互作用(PPI)を解明することで、それはバイオシステムを構成する因子の機能構造を分子レベルで解析することです。それらを俯瞰して全体の動きやそれらがお互いに与え合う影響を総体的にとらえ理解することが必要であると思います。

そこで、その方法としては、標的疾患の臨床試料と疾患に影響の無い臨床試料を比較して、その中で疾患に関与しているプロテインを探索し、探索された疾患に関与するプロテインをゲノム解析や今までのプロテオーム解析情報を用いたコンピューター解析で同定します。しかし、このコンピューター解析で同定できない場合は、標的疾患の臨床試料を用いて疾患に関与するプロテインの構造を同定します。

それにはスループットと感度が高く、化合物の分子量や構造を確認できる質量分析の手法がこの分野で重要になっています。次に疾患に関与するプロテインが同定できたらそれと相互作用するプロテインを探索します。この様に実際に疾患状態で起こっている動的ネットワークのプロテインープロテイン相互作用のシステムを解明することで、その疾患のメカニズムが明らかになり、このプロテインープロテイン相互作用がこれからに創薬のターゲットになるのではないかと考えます。

そこで、ここでは探索的プロテインープロテイン相互作用を解明できる非常に有効な東京工業大学大学院生命理学研究所の林宣宏准教授が開発した、ハイスループット(HT)で測定できる二次元電気泳動法を紹介します。

この方法は多数の検体の相互比較が可能な高い再現性があり、かつ、少量のサンプルで実施可能な高感度でデータを得ることが出来き、短時間で多検体を解析することが可能です。この二次元電気泳動法で臨床試料を分析したデータを、コンピューターのマシンランニングの方法で解析することで、どの二次元電気泳動のスポットがそれぞれの疾患に特徴的であるかを同定し、プロテオーム解析することで、その疾患に関与するプロテインを効率よく同定出来ると考えます。

更に、同定された疾患に関与するプロテインがどのようなバイオメカニズムを持っているかを解明するために、そのプロテインが何のプロテインと相互作用をしているかを解明する必要がありますが、それには、私たちが提案している技術が有効です。それは、弱いプロテイン相互作用をも検出できるNanopore Optical Interferometry(nPOI)とLC/MS/MSを接続したSkiPro(Silicon Kinetics)です。

この装置は、nPOIはSurface Plasmon Resonance(SPR)と 同様にKon,Koffのヒストグラムの現象を観測することができるが、SPRよりも 結合容量が高い(100倍以上)ためバインディング化合物を直接LC/MSで検出し、分子量と構造を確認することが可能です。さらに混合物の中から直接ターゲットプロテインと相互作用している化合物やプロテインなどを同定することが出来るため、疾患に関与しているプロテインがどのプロテインと相互作用をしているかを探索することが可能なシステムです。

 

 

 

図、SKiProとLC/MSのシステム

 

下記の図では、チップにリガンドプロテインCarbonic Anhydrase IIを固定し、8種類のSulfonamideの混合物を用いアフィニティー解析を行い、nPOIから溶出してきたKoffの分子をESI LC/MSの導入しMSスペクトルを測定した結果1,3-BenzenesulfonamideとDansylamideが結合していることがわかります。この結果はプロテインと低分子の相互作用を見ていますが、プロテイン-プロテイン相互作用探索にも重要な手段となりうると考えています。

 

 

図、Carbonic Anhydrase IIとSulfonamideの混合物を用いたnPOI/LC/MSの結果

 

この様な手法を用いて解明した疾患に関与しているプロテイン-プロテイン相互作用を創薬のターゲットとするためには、そのプロテイン相互作用がそれぞれのプロテインの部位で結合しているかを解明することが必要となります。そこで、有効に利用できる方法がLC/MS/MSを用いたH/D交換(HDX)方法で、タンパク質でOHとNHグループのH/D交換を利用し、タンパク質の結合部分の解析を行いプロテイン-プロテイン相互作用の構造的な情報を効果的に得ることができます。

 

 

図7Hydrogen/Deuterium Exchange with Mass Spectrometry foe Drug Screening

 

この手法はそれぞれのプロテインのどのアミノ酸配列の位置が結合に関与しているかを明らかにできるため非常に有用と思います。 そこで、次の課題は上記のような方法で解明した動的ネットワークのプロテインープロテイン相互作用のシステムのどの部分が創薬に応用できるかになります。

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