どの様な薬でも人体では異物と判断し、必ず体外に排除する代謝機能が働きます。また抗体などの高分子化合物や免疫製剤などは体内防御機構が働き、抗原抗体反応や自己免疫疾患のような拒絶反応を引き起こした場合、異物と認識されて化合物は一切薬にすることが出来ません。この代謝機能と防御機構には個人差があります。
更に、全ての薬は常に薬物活性と副作用・毒性の両面を持っており、活性を高めて副作用・毒性を最小限に抑えるために薬物の体内動態を検討することが必要です。そして、この活性と副作用・毒性の出方にも個人差が有ります。 創薬初期の段階で見つかった活性の高い創薬候補化合物には、動物や人に投与することが難しい化合物が非常に多いことは私がRoche時代に行った天然物のScreeningのところで問題点として少し書きました。
特に、近年のHT-Screeningで行われている、低分子や中分子化合物のプロテインとリガンドのバインディングやプロテイン-プロテイン相互作用をみるAssay系では、脂溶性の高い化合物ほどプロテインとの相性が良く活性が高くなる傾向がみられます。そのため、これらの化合物は体内動態が非常に悪くそのままでは動物に投与することが出来ないものが多いのです。 更に、薬は図のように薬物活性、安全性、体内動態・物性と化学構造が全てバランスよく成り立つことが重要です。
しかし、特に1980年代後半からプロテインーバインディングAssayが盛んになってから、医薬品開発の失敗確率の一番高なってきました。それは当時創薬候補品の体内動態を検討ために動物に投与する必要があり、大量の動物を使うことが出来ないために体内動態の検討は創薬の後期に行っていたからです。
そこで、私の経歴の所でも少しお話しましたが、私たちが上記の様に体内動態を1)から5)の様に細分化して、それぞれの項目についてロボットを用いたHigh-Throughput(HT)でAssayするHT-ADMETを開発することで、創薬開発の初期の段階で体内動態の推測が可能になり、更に、2000年頃からはこの方法が一般的になったことで、体内動態で医薬品の開発を断念することが下記の図のように少なくなりました。
以上のことから、Screeningで選択した活性の高い創薬候補化合物は、活性を更に高め、体内動態を良くし、安全性を高める(毒性・副作用軽減)ために、X線解析などで得られたプロテインとリガンドのバインデングの3次元構造も考慮して、化学構造を部分的に変えていく必要があり、それを現したのが下記の図で、この方法を私たちは「構造・活性相関」と呼んでいます。 低分子・中分子創薬の分野では創薬の初期の段階で「構造・活性相関」を考えて創薬候補品を医薬候補品へと変えていく必要があり、これによって薬の化学合成の中に創薬化学(Medicinal Chemistry)の分野が出来て、この分野が近年発展してきました。 以上のような過程を経てScreeningで見つかった創薬候補品がやっと開発のPhase Studyに入る医薬候補品になるわけです。
但し、私が冒頭で活性、安全性(毒性・副作用)と体内動態には個人差があると言いました。しかし、現在市販されている医薬品に記載されている投与量と体内動態の情報は、Phase Studyで得たDataの平均値であるために、医師から処方される医薬品の活性と副作用には患者によって差が出ます。私が以前に糖尿病治療薬で構造が殆ど変わらないのに、ある患者に効くものと効かないものがある話をしましたが、これも多くの場合は体内動態などの個人差に起因すると考えられます。 一方、抗体や免疫製剤で起こる抗原抗体反応や自己免疫疾患のような拒絶反応も薬の安全性にとって重要な問題ですが、これに関しては私として理解が不十分なのでこの場では言及しないことにします。
以上で、私の考えている創薬全体の流れの説明はほぼ終了しました。次回は低分子・中分子創薬の今までの考えを変えるかも知れないAntibody-drug conjugate(ADC)製剤に関して説明し、最後にまとめの意味で再度これからの創薬について考えてみたいと思っています。
