研究課題の解決法 発行日: 2026.09.20 参照数: 36

リバースファーマコグノジーによる標的予測と天然物評価

概要 / Abstract

提供:Laboratoire Greenpharma

バイオインフォマティクス(生命情報科学)と生薬学を融合させたリバースファーマコグノジー(逆生薬学)のアプローチにより、天然由来生物活性分子の探索を大幅に効率化する手法を解説します。本記事を読むことで、膨大な天然化合物から目的の治療標的に適合する分子を特定し、創薬や機能性成分開発にかかる時間とコストを最適化するための判断基準が明確になります。

現場で起きていること

創薬や化粧品、機能性食品の開発現場において、天然物は多様な化学骨格を持つことから有望な新薬候補として期待され続けています。従来の生薬学(ファーマコグノジー)的な手法では、伝統的な伝承薬などで使用実績のある生物資源(植物や微生物など)を対象サンプルとして選定し、そこから活性フラクション(有効成分を含む画分)を抽出する手順を踏みます。その後、インビトロ(試験管内)のアッセイを指標としながら、活性を追跡して分画、精製を繰り返し、最終的に分析化学的な手法を用いて候補化合物の構造を決定するという、非常に長い道のりと膨大な時間を要するプロセスが行われています

これらの課題を解決するために導入されたのが、従来法とは逆のアプローチをとるリバースファーマコグノジーです。従来法が「生物資源から個別の分子へ」と手順を進めるのに対し、リバースファーマコグノジーは「純粋な分子から生物資源へ」と進むのが最大の違いです。具体的には、あらかじめ純度90%以上に精製され、ジメチルスルホキシド(DMSO)に5mM濃度で溶解された化合物ライブラリーなどの確実な分子を出発点とします。この分子に対してインシリコ(コンピュータ上)のバーチャルスクリーニング技術を適用し、結合する可能性のあるタンパク質標的を予測することで、ランダムな試験による失敗を減らし、天然物評価を劇的に効率化しています

また、単離された化合物を評価するインビトロ試験においても、失敗に繋がる落とし穴が存在します。タンパク質は本来、リガンド(結合する分子)の接近に応じて構造を変化させる柔軟性(誘導適合など)を持っています。しかし、コンピュータを用いた従来の結合予測において、X線結晶構造解析などで得られた静的で固定された単一のタンパク質構造のみを条件として評価すると、実際の生体内における動的な結合状態を見落とすという致命的な失敗が生じやすくなります。複数の状態の構造を考慮しないまま解析を進めることで、本来は強い活性を持つはずの有望な天然化合物をスクリーニングの段階で取りこぼしてしまうのです

選び方の分かれ目

リバースファーマコグノジーを実践するにあたり、使用するターゲットデータベースとインバーススクリーニング(逆スクリーニング)ツールの選定がプロジェクトの成否を分ける重要な分かれ目となります。一般的なドッキングソフトウェアは、1つのタンパク質標的に対して多数の化合物をスクリーニングする従来法を前提に設計されています。しかし、逆スクリーニングでは手順が異なり、1つの対象化合物(例えば、ミカン科植物由来のクマリン誘導体メランジンなど)を、数千のタンパク質ターゲット群に対して一斉にドッキングさせます。この際、スコアリング関数(結合の強さを評価する計算式)が適切に調整されていないツールを選ぶと、現場での失敗に直結します。結合力の弱いターゲットと強いターゲットを区別できず、無関係なタンパク質が上位にランクインする偽陽性が多発してしまうためです

さらに、スクリーニングの出発点となる天然化合物ライブラリーの選び方も極めて重要です。特定の化学骨格に大きく偏ったライブラリーを選ぶ従来法では、新規性の高いヒット化合物を得ることが困難です。そこで、アミノ酸やペプチドなどを意図的に除外し、アルカロイド(49%)、フェノール類(26%)、テルペノイド(20%)といった主要なファイトケミカルファミリーを網羅するように設計されたライブラリーを対象サンプルとして選定します。分子量200〜600のDrug-Like(薬物らしさ)にフォーカスした638種の純度90%以上の化合物パネルを実験条件として用いることで、構造多様性が確保され、未知の生物活性を発見するヒット率を飛躍的に高めることが可能になります

この強力な手段を用いる際、現場の研究者が最も陥りやすい失敗は、インシリコでの計算上の予測結果(スコア)のみを過信して鵜呑みにし、その後の実験的な検証手順を軽視してしまうことです。バーチャルスクリーニングで得られた上位の候補ターゲットは、あくまで情報科学的な「仮説」に過ぎません。最終的な手段としての有用性を確立し、確実なデータとするためには、予測されたターゲットに対して対象サンプルを用いた結合アッセイや生化学的テストを必ず実施しなければなりません。たとえば、細胞ベースのアッセイにおいてTNF-α(腫瘍壊死因子)産生抑制のIC50値(半数阻害濃度)を測定したり、レファレンス化合物との活性比較を行ったりする条件を設け、予測モデルと実験結果のすり合わせを行うことが不可欠です

詳細は Greenpharma Phytochemical Library を参照してください。

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