私たちの遺伝情報を書き換え、病気の原因となる遺伝子を直接修正する「遺伝子編集」。多くの遺伝性疾患の治療法として大きな期待が寄せられるこの技術には、しかし、常に「エラー」のリスクがつきまといます。もし、修正の過程で意図しない間違いが起きてしまったら?この根本的な課題に対し、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちが、エラー率を劇的に低減させる画期的な方法を開発しました。より安全で正確な遺伝子治療の実現に向けた、大きな前進です。
「プライム編集」として知られるこのゲノム編集技術は、欠陥のある遺伝子を機能的なものに変換することで、多くの疾患を治療する可能性を秘めています。しかし、そのプロセスには有害となりうるエラーを挿入してしまうわずかな可能性があります。今回、MITの研究者たちは、プロセスに関与するタンパク質を改良することで、プライム編集のエラー率を劇的に下げる方法を発見しました。この進歩により、様々な疾患に対する遺伝子治療法の開発が容易になる可能性があると研究者らは述べています。
「この論文は、送達システムを複雑にしたり、追加のステップを加えたりすることなく、より少ない不要な変異で、はるかに正確な編集を可能にする新しい遺伝子編集のアプローチを概説しています」と、ノーベル賞受賞者であり、MITの名誉教授、MITコッホ統合がん研究所のメンバーでもある、今回の研究の上級著者の一人、フィリップ・シャープ博士(Phillip Sharp, PhD)は語ります。
MITのチームは、この新しい戦略を用いて、最も一般的に使用される編集モードでプライムエディターのエラー率を約7回の編集に1回のエラーから101回に1回へ、高精度モードでは122回の編集に1回のエラーから543回に1回へと改善することに成功しました。
「どんな薬でも、効果的でありながら副作用ができるだけ少ないものが望まれます」と、MITのデビッド・H・コッホ研究所教授であり、コッホ研究所のメンバーでもある、本研究の上級著者の一人、ロバート・ランガー博士(Robert Langer, ScD)は言います。「ゲノム編集を行う可能性のあるどんな疾患に対しても、これは最終的にはより安全で優れた方法になるだろうと思います。」
コッホ研究所の研究科学者であるヴィカシュ・チャウハン博士(Vikash Chauhan, PhD)が本論文の筆頭著者であり、論文は2025年9月17日にNature誌に掲載されました。このオープンアクセスの論文は、「Engineered Prime Editors with Minimal Genomic Errors(ゲノムエラーを最小限に抑えた人工プライムエディター)」と題されています。
エラーの可能性
1990年代に初めて試みられた最初期の遺伝子治療は、ウイルスによって運ばれる新しい遺伝子を送達するものでした。その後、ジンクフィンガーヌクレアーゼのような酵素を用いて遺伝子を修正する遺伝子編集技術が開発されました。しかし、これらのヌクレアーゼは設計が難しく、異なるDNA配列を標的とするように適応させるのは非常に手間のかかるプロセスでした。
その数年後、バクテリアからCRISPRゲノム編集システムが発見され、科学者たちにゲノムを編集するはるかに簡単な方法を提供しました。CRISPRシステムは、特定の場所で二本鎖DNAを切断できるCas9という酵素と、Cas9にどこを切断すべきかを指示するガイドRNAから構成されています。
2019年には、MITとハーバード大学のブロード研究所の研究者らが、より精密でオフターゲット効果(意図しない場所への作用)が少ないCRISPRベースの新システム「プライム編集」の開発を報告しました。最近の研究では、プライムエディターが白血球に影響を与える希少な遺伝性疾患である慢性肉芽腫症(CGD: chronic granulomatous disease)の患者の治療に成功したことが報告されています。
「原則として、この技術は最終的に、細胞や組織内の小さな変異を直接修正することによって、何百もの遺伝性疾患に対処するために使用できる可能性があります」とチャウハン博士は言います。
プライム編集の利点の一つは、標的DNAに二本鎖切断を行う必要がないことです。代わりに、相補的な鎖の一方だけを切断する改良版のCas9を使用し、新しい配列を挿入できる「フラップ」を開きます。
しかし、新しい配列がコピーされた後、それがゲノムに組み込まれるためには、元のDNA鎖と競合しなければなりません。もし元の鎖が新しい鎖に打ち勝つと、余分な新しいDNAのフラップが誤ってどこか別の場所に組み込まれ、エラーを引き起こす可能性があります。これらのエラーの多くは比較的無害かもしれませんが、一部は最終的に腫瘍の発生や他の合併症につながる可能性があります。
精密な編集
エラー率を減らすために、MITのチームは2023年の研究で観察した現象を利用することにしました。その論文で彼らは、Cas9は通常、毎回同じDNAの位置を切断するのに対し、タンパク質の一部の変異型ではその制約が緩和されることを見出しました。これらの変異型Cas9タンパク質は、常に同じ場所を切断するのではなく、DNA配列上で1〜2塩基ずれた場所を切断することがありました。
研究者らが発見したのは、この「緩和」が元のDNA鎖を不安定にし、分解されやすくするということでした。その結果、新しい鎖がエラーなく組み込まれやすくなるのです。
新しい研究で、研究者らはエラー率を元の値の20分の1にまで低下させるCas9の変異を特定しました。さらに、それらの変異を組み合わせることで、エラー率を元の36分の1にまでさらに低減させたCas9エディターを作成しました。
エディターをさらに正確にするため、研究者らは新しいCas9タンパク質を、RNAテンプレートの末端をより効率的に安定化させるRNA結合タンパク質を持つプライム編集システムに組み込みました。研究者らが「vPE」と名付けたこの最終的なエディターは、元のエラー率のわずか60分の1となり、異なる編集モードで101回に1回から543回に1回のエラー率を達成しました。これらの試験はマウスおよびヒトの細胞で行われました。
MITのチームは現在、Cas9とRNAテンプレートのさらなる改良を通じて、プライEムエディターの効率をさらに向上させることに取り組んでいます。彼らはまた、遺伝子治療における長年の課題である、エディターを体内の特定の組織に送達する方法にも取り組んでいます。
「ゲノムエディターは研究室で広く使われています」とチャウハン博士は言います。「ですから、治療面での応用も楽しみですが、人々が私たちのエディターを研究のワークフローにどのように統合し始めるかを見るのも本当に楽しみにしています。」



