植物、動物の細胞には2つのゲノムがある。一つは細胞核に、もう一つはミトコンドリアに含まれている。それぞれゲノムで突然変異が起きた場合、互いに異なる配列の変異を呈し、それが原因で病気になる場合がある。最近、ブラウン大学とインディアナ大学の科学者チームが、その病気をさらによく知るため、ショウジョウバエを対象として、個々のヌクレオチドの逸脱やショウジョウバエが発病する機序までを研究した。単一のゲノムの突然変異による発病だけでも十分に複雑だが、細胞核のDNAとミトコンドリアのDNAという2つのゲノム同士の相互作用の逸脱で引き起こされる病気もある。
科学者は、そのようなゲノム同士の変異の違いが原因で発病する過程を調べようと考えた。そこで、ブラウン大学とインディアナ大学の科学者チームは、ショウジョウバエのゲノムが異なる配列の突然変異を引き起こす過程を個々のヌクレオチドの突然変異の水準まで追求し、二つの遺伝子の同時的な突然変異でショウジョウバエが発病する機序を突き止めた。ブラウン大学の生物学教授で、この研究論文の筆頭著者でもあるDr. David Randは、「この機序は人間の病気にもあてはまるが、この2つのゲノムはすべての動物、植物に存在するため、すべての有機体にあてはまるというべきだ」と語っている。この研究論文は、「PLOS Genetics」の2013年1月31日付オンライン版に掲載された。博士はさらに、「ミトコンドリアを原因とする代謝病がたくさんあり、いずれも固有の遺伝的痕跡を示している。これは2つに分けて考えた方がいいかも知れない」 と述べている。
5年前、Dr. Randと、2人の博士研究員、1人はブラウン大学とインディアナ大学のDr. Colin Meiklejohn、もう1人は現在インディアナ大学で准教授を務めるDr. Kristi Montoothの3人が、研究の手頃なたたき台としてショウジョウバエを対象にした。まず3人は、進化過程で自然な突然変異を続ける異なる系統、異なる種のハエのミトコンドリアと細胞核のゲノムを何通りにも組み合わせ、どのような問題が起きるかを観察した。その結果、オナジショウジョウバエ (Drosophila simulans) の “simw 501” ミトコンドリアDNAを、“Oregon R” 細胞核DNAを持ったキイロショウジョウバエ (Drosophila melanogaster) に導入すると問題が起きた。この組み合わせのショウジョウバエは生き延びたが様々な問題を抱えていた。真っ先に目につく欠陥は、背中のヒゲ状の剛毛が正常な個体の半分ほどの長さしかなかった。また、このようなハエは成長も遅れ、繁殖の効率も悪く、疲れるのも早かった。細胞のエネルギー源がミトコンドリアであることを考えればこれは当然だった。
研究論文の筆頭著者、Dr. Meiklejohnらのチームは、一旦、研究対象として正真のミトコンドリア-細胞核不一致を見つけると、次に、どこに不一致の原因があるのか、どのように病気を引き起こすのかの研究に取りかかった。「PLOS Genetics」掲載論文で、チームはそれを突き止めるためにおこなった遺伝学的、生化学的実験について記述している。論文の次席著者でブラウン大学院生Marissa Holmbeckは、ミトコンドリアのエネルギー生成過程中のいくつかの酵素の生産力を測定している。細胞核遺伝子のみに由来する2種類の酵素は、病気のハエでも正常なハエでも同じように機能するが、ミトコンドリア遺伝子と細胞核遺伝子の双方に由来する3種類の酵素は不活発になっている。Holmbeck氏は、「ミトコンドリアと細胞核のサブユニットとの双方からエンコードされている異なる複合体は機能不全が起きているが、実際には、個々の突然変異だけでは、ハエにほとんど何の害ももたらさないようだ」と述べている。
ハエが病気になるのは両方が同時に存在する場合だけだ。一方、Dr. MeiklejohnとDr. Montoothは、その二つの突然変異をヌクレオチドで2種類の記号にまで追い詰めることができた。各ゲノムに一か所ずつの突然変異があり、ミトコンドリアのゲノムで、RNA内のGがUに突然変異し、ミトコンドリア内のタンパク生産に問題があることを示唆している。このことは、チームが、同じミトコンドリアRNAにアミノ酸を加える細胞核タンパクにAからVへの突然変異が起きることを発見して確認された。生化学的、遺伝学的な証拠から、病気の個体では、成長促進に必要なタンパクを作るミトコンドリアの能力に問題が起きていることが示されている。Dr. Randは、「この研究論文の眼目は、DNAの突然変異と病気の関係を個々のヌクレオチドのレベルまで追いかけることにある。しかし、一般的な教訓としては、このミトコンドリアと細胞核内の遺伝子の共進化は、何百万という有機体の中で何百万年もかけて進んできており、現代の人間の体内でも依然として進んでいる」と述べている。
人間の場合にはよく知られたミトコンドリア病として運動嫌いがあるが、これは、このチームがショウジョウバエで研究した同じミトコンドリアRBA遺伝子の突然変異によるものである。現在、Dr. Randの研究チームは、単一種でのミトコンドリア-細胞核不一致をさらに遺伝学的、生化学的起源にまでさかのぼる新しい実験を進めている。Dr. Randは、「この研究論文では、ミトコンドリア-細胞核不一致を同定し、それをマップ化して、それぞれのヌクレオチドに対応させることができるという基本を証明している。このことがどれほど一般的なのか、また、病気を引き起こすミトコンドリア-細胞核のやりとりが断絶する原因は他にはないのか? などまだ探求すべきことがいくつもある」と述べている。
この研究論文には、Rand、Montooth、Meiklejohn、Holmbeck各氏の他、ブラウン大学のDawn Abt、インディアナ大学のMohammad Siddiq氏も名を連ねている。画像で、やや暗い卵形の細胞核を包む明るい部分が、着色したショウジョウバエの卵細胞内のミトコンドリアの位置を示している。ブラウン大学とインディアナ大学の研究者は、細胞核ゲノムとミトコンドリア・ゲノムの不一致のためにショウジョウバエが病気になる現象の遺伝学的、生化学的原因をたどっていった。(出典: Rand lab/Brown University)。[ブラウン大学プレス・リリース"> [インディアナ大学プレス・リリース"> [PLOS Genetics article">
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Fitness-Reducing Interaction Between Nuclear and Mitochondrial DNA Mutations



