コロンビア大学メディカルセンター(CUMC)と他の研究機関で構成される遺伝子研究チームが、哺乳類細胞における膨大な遺伝子機能調節ネットワークを明らかにした。これによって、遺伝的変異性の観点から、悪性腫瘍や他の疾病を説明できる道筋が出来た事になる。この新たな機能ネットワークに関連する4つの研究結果が、2011年10月14日付Cell誌に発表された。「この遺伝子機能調節ネットワークの解析によって、細胞内情報伝達機構を解明するために欠けていたパズルのピースが見つかり、これまでは不明だった特定の腫瘍や疾病に関与する遺伝子を同定する事が出来るのです。」とCUMC研究報告書上級主筆でシステムバイオロジー・コロンビア・イニシアチブの所長を務めるアンドレア・カリファーノ教授は話す。
十年来、メッセンジャーRNA(mRNA)の第一の役割は、DNA情報を、タンパクの生合成の場であるリボソームに運ぶ事であると、研究者達は考えてきた。しかし、昨今の研究によって、一つのDNAに由来するmRNAは同時に、巨大なマイクロRNA分子のプールを介して他のmRNAからの影響を受け、そこでは幾千もの遺伝子が自己調節のサブネットワークを動かしながら関連しあっている。
この研究成果によって、腫瘍がどのようにして作られ成長するのかを、幅広い観点から研究できる素地が出来たと考えられる。それによって、悪性化のリスクを確定診断したり、悪性腫瘍の成長と転移の促進を不活性化させるようなキーとなる分子を同定したり出来るようになるのだ。
例えば、ホスファターゼ・テンシン・ホモログ(PTEN)は主要なガン抑制タンパクであるが、幾つかのガンの症例においてmRNAネットワーク調節因子が欠損している患者では、PTENそのものが損傷を受け変異している場合が報告されている。新たに同定された機能調節ネットワーク(CUMCの研究チームではmPRネットワークと呼称している)では、mRNAがマイクロRNAと呼ばれるRNAの小さな構成要素を介して情報伝達を行なっている。研究者達が10年ほど前に明らかにしたのは、マイクロRNAがmRNAの遺伝子配列部分に相補的に結合し、mRNA情報からタンパクが合成される事を阻害する機能を有している事であった。
しかし、もはやこの概念は捨てねばならず、新たな研究によって明らかにされたのは、mRNAが実際にマイクロRNAを使って他の遺伝子の発現に関与していると言う事なのである。二つの遺伝子が同じセットのマイクロRNAを調節因子として共有している場合は、一つの遺伝子の発現活性の変化はもう一つの遺伝子の活性に影響する。もし例えば或る一つの遺伝子の発現が昂進した場合には、対応するmRNA分子は呼応して増加し、それに応じて必要なマイクロRNAがどんどん結合吸着される。その結果、他の遺伝子に対応するmRNAに結合して発現を抑制するマイクロRNAの数は、より少なくなってしまい、それに応じてその遺伝子の発現が昂進される。
そのような効果については以前から判明していたが、この種の相互作用の幅と関連性についての特性は判っていなかった。「このタイプのマイクロRNA介在機能調節は、細胞内で日常的に起こっており、何千という数の遺伝子が何十万個ものマイクロRNA介在相互作用によってコントロールされている事が判りました。
この機構は、転写因子によって標的遺伝子が制御されている転写調節ネットワークのような他の機構にも、同様の規模とスキームで適用されているのです。」とシステムバイオロジー部の研究フェローでCUMC論文の主筆であるパベル・スマジン博士は語る。
CUMCの研究において、スマジン博士の研究チームはグリア芽腫に発現するmRNAとマイクロRNAについて、ガン遺伝子アトラスを用いて解析した。このガン遺伝子アトラスは公共のデータベースで、248,000を超えるマイクロRNA介在相互作用を含む遺伝子調節階層を明らかにする機能を有している。
腫瘍抑制遺伝子PTENに注目すれば、それは500個以上の遺伝子から成るサブネットワークの一部であることが判る。13個の遺伝子はグリア芽種では欠損している事が多く、マイクロRNAと連携しPTENの活性を停止させると考えられる。結果として観察される事象は同じではあるが、既存の仮説では、腫瘍によってPTENが変異して不活性化し或いはPTEN自体の欠損が引き起こされると考えられていた。
今回の成果によって、一部だとは言え何故グリア芽種患者が、同じ遺伝子プロファイルを有していないのかの説明が出来る。患者の凡そ80%にPTEN遺伝子の欠損が観察された。残りの20%のほとんどの場合、PTENは損傷を受けていないが発現していないという、研究者が困惑する様相を呈していた。
「これはつまり、PTENが完全に不活性化する別のメカニズムがあると言うことです。私達は、少なくとも13個の遺伝子が−但しどれもガンとの関連はないが−PTEN上で「集団化」して活性を抑制すると考えています。この現象はPTENが欠損する他の患者さんのケースとは異なった組み合わせです。」とスマジン博士は説明する。カリファーノ博士が補足して「このネットワークは”遺伝子のダークマター”と名付けられた現象をうまく説明するものです。研究者は特定の疾病に関与する全ての遺伝子の目録を長年作成してきました。
しかしどれ程精度の高い既知の遺伝子情報とエピジェネティック情報を用いたところで、発症した疾患の説明が付かない場合が数多くあるのです。ようやく私達は遺伝子の多様性を説明する手立てを見つけたので、疾患の理解が更に進み、最終的には新たな治療法を見つける事が出来ると考えています。」と語る。
Cell誌の同じ号で発表された、べス・イスラエル・デーコネス医療センター癌遺伝学プログラム代表のピエール・パウロ・パンドルフィ博士とその研究チームの報告では、前立腺がんと大腸がんのヒト細胞株由来のPTENに関与する150個の新たな遺伝子を関連付けた。第二報では、パンドルフィ博士の研究チームが、PTENのRNAネットワーク内の遺伝子変異によって、メラノーマモデルマウスのガンの増殖が促進される事が実証された。
Cell誌の同じ号に発表されたローマ・ラ・サピエンツァ大学のアイリーン・ボゾニ博士の報告では、正常な筋肉細胞分化とヒト非翻訳性RNAに関与するRNAネットワークの機能が実証されている。
[BioQuick News: Vast New Regulatory Network Discovered in Mammalian Cells">



