アルツハイマー病の長年の矛盾を解消?疾患に関連する細胞を特定する新ツール「seismic」

2021年時点で、世界の認知症患者数は5,700万人と推定され、毎年1,000万人近くの新規症例が記録されています。2025年の研究によると、米国では600万人以上が認知症の影響を受けており、今後数十年で新規症例数は倍増すると予想されています。この分野の進歩にもかかわらず、病気を引き起こすメカニズムの完全な理解はまだ不足しています。

このギャップを埋めるために、ライス大学(Rice University)の研究者とボストン大学(Boston University)の共同研究チームは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの認知症を含む、複雑なヒトの形質や疾患に遺伝的に関連する「特定の細胞タイプ」を特定するのに役立つ計算ツールを開発しました。

「seismic(Single-cell Expression Integration System for Mapping genetically implicated Cell types:遺伝的に関連する細胞型をマッピングするためのシングルセル発現統合システム)」と名付けられたこのツールは、研究チームが記憶形成に関わる脳細胞の遺伝的脆弱性を突き止め、それらをアルツハイマー病と結びつけるのに役立ちました。この病気とこれらの特定の神経細胞との間の遺伝的リンクに基づいた関連性を確立したのは、今回が初めてです。このアルゴリズムは、複雑な疾患において潜在的に重要な細胞タイプを特定する上で既存のツールよりも優れた性能を発揮し、認知症以外の疾患の状況にも適用可能です。

2025年10月1日に『Nature Communications』誌で発表されたこの研究は、アルツハイマー病研究における長年の矛盾を解き明かす助けとなります。その矛盾とは、患者のDNAにある遺伝的な手がかりは、脳内の感染防御細胞、つまりミクログリア(小膠細胞)が病理に最も強く関与していることを示している一方で、患者の脳を実際に調べると別のストーリーが見えてくるという点です。

オープンアクセス論文のタイトルは「Disentangling Associations Between Complex Traits and Cell Types With seismic(seismicを用いた複合形質と細胞型との関連性の解明)」です。

「加齢とともに一部の脳細胞の働きは自然に低下しますが、記憶喪失の病気である認知症では、特定の脳細胞が実際に死滅し、置き換わることがありません」と、本研究の筆頭著者であるライス大学の博士課程学生、チーリャン・ライ氏(Qiliang Lai)は述べています。「死んでいるのは記憶を作る脳細胞であり、感染と戦う脳細胞ではないという事実は、DNAの証拠と脳の証拠が一致しないという混乱したパズルを生じさせていました」。

チームの調査では、計算手法を用いて既存の遺伝データを新しい方法で分析しました。彼らの手法は、2種類の大規模な生物学的データを統合するものです。一つは「ゲノムワイド関連解析(GWAS: Genome-wide association studies)」で、これはヒトゲノムを解析して特定の病気や形質を持つ人々の間で共有されているDNAの小さな違いを見つけるものです。もう一つは「シングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq: single-cell RNA sequencing)」で、これは数万から数百万の個々の細胞でどの遺伝子が活性化しているかを測定し、細胞が分子レベルでどのように異なるかの詳細なマップを作成するものです。

これらのデータタイプから相関的な洞察を引き出そうとする以前の試みは、規模の拡大や解釈が難しく、2つの主な弱点のために堅牢な関連性を得ることができませんでした。第一に、scRNA-seqに関しては、細胞タイプの解像度が広すぎて一般化されすぎてしまい、細胞が位置する脳領域などの重要な詳細を見逃してしまうこと。第二に、GWASに関しては、臨床診断に基づいた大規模研究における遺伝的シグナルが、より一貫して影響を受ける細胞タイプ、つまり免疫関連細胞を過度に強調する傾向があり、病気の他の側面をかき消してしまうことでした。

「私たちは、遺伝情報を分析し、それを特定のタイプの脳細胞に正確に照合するために、seismicアルゴリズムを構築しました」とライ氏は言います。「これにより、どの細胞タイプがどの遺伝プログラムの影響を受けているかという、より詳細な全体像を作成することが可能になります」。

研究者たちがこのアルゴリズムをテストしたところ、既存のツールよりも優れたパフォーマンスを示し、疾患に関連する重要な細胞シグナルをより明確に特定することがわかりました。

「この研究は、アルツハイマー病研究に関するデータ内の矛盾するパターンのいくつかを調和させるのに役立つと考えています」と、論文の責任著者であり、ライス大学ケン・ケネディ研究所のメンバーであるコンピュータサイエンス助教のヴィッキー・ヤオ博士(Vicky Yao, PhD)は述べています。「それ以上に、この手法は、さまざまな複雑な疾患においてどの細胞タイプが関連しているかをより深く理解するために、広く役立つ可能性があります」。

この研究は、新しい公的投資イニシアチブを通じて脳の健康と認知症予防を推進しようとするテキサス州全体の新たな機運の中で発表されました。今年初め、テキサス州議会は、認知症の予防、治療、ケアにおけるイノベーションを加速させるための超党派の措置である上院法案5を通じて、テキサス認知症予防・研究機関(DPRIT)を設立しました。この11月には、今後10年間で30億ドルをDPRITに提供するためのプロポジション14が州全体の投票にかけられ、全米最大の州主導型認知症研究プログラムが誕生することになります。成功を収めたテキサスがん予防・研究機関(CPRIT)をモデルにしたDPRITは、テキサス州を脳の健康と神経変性疾患研究における世界的リーダーにすることを目指しています。

「私たちは今、コンピューティングとデータサイエンスの進歩が、人間の病気の研究方法をますます変革している地点にいます」と、CPRITスカラーでもあるヤオ博士は語ります。「今、私たちはその勢いを維持しなければなりません」。

写真:ヴィッキー・ヤオ博士(Vicky Yao, PhD)

[News release] [Nature Communications article]

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