90%以上の人は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)に対する抗体を有している。そうでない人にとってこのウイルスは、短核球症や「キス病」の病因としてよく知られているが、その他にもこのウイルスは、ホジキンスリンパ腫、非ホジキンスリンパ腫、そしてバーキットリンパ腫等のより重篤な疾病にも関与している。このEBVがリンパ腫の発症にどのように関与しているのかは未だ明らかにはされていないが、このたび、ペンシルバニア大学獣医学部とペンズ・ペレルマン医科大の研究チームが、「人間の最も良き友人」に対してエプステイン・バーウイルスが感染し、リンパ腫の発症に関与していることを実証した。
この研究によれば、EBVの感染においては、飼い犬は人間と同様の感染メカニズムを有しているようだ。これは、EBVが特定の条件の人にガンを発生させるメカニズムを解明する手がかりとなる。「これまでは、EBV感染とウイルス関連疾患研究のための、大型動物のモデルがありませんでした。そしてウイルス感染研究の多くはヒト以外の霊長類で行なわれ、大変コストが掛かっていたのです。」と本論分の上級著者で、ペンシルバニア大学獣医学部の医薬・病理バイオロジー学准教授であるニコラ・メイソン博士は語る。そして「犬が人間と同じようにこのウイルスに感染することが判明したので、EBVが関与する疾病の、長期的な研究モデルとして活用できるようになったのです。」補足する。
ペンシルバニア大学獣医学部のメイソン教授の研究チームメンバーは、シンフン・フアン博士、フィリップ・コザック氏、ジェシカ・キム氏、ジョージ・ハビネザ・ヌディクエーゼ氏、チャールス・メーデ氏、アニタ・ゴーニエ・ハウザー氏、そしてリーマ・ペイテル氏等である。同チームはペレルマン医科大・微生物学教授のエール・ロバートソン博士と共同研究体制をとっている。彼等の研究成果はjournal Virology誌オンライン版に2012年3月8日付けで発表された。
ヒトにおいては、このEBVウイルスはB細胞に感染する。感染急性期には、感染の自覚は無く、ウイルスは潜伏期へと移行する。潜伏期には、ほとんどの人には自覚症状が無く、ある確率で、EBVウイルスはB細胞の不自然な成長を誘起し、これがリンパ腫の要因となる。一方、犬に発症するリンパ腫は、その幾つかの例において、ヒトの場合と同じ様な様相を呈する。これは犬の血統によって顕著であり、例えば、ゴールデン・リトリバーでは、8頭に1頭の割合でリンパ腫を発症する。「これまでEBVウイルスは人間にのみ感染すると考えられてきました。このウイルスは良く出来ており、ほとんどの人が感染します。しかし、人間が犬を飼うようになったのは約1万5千年前ですから、その間にこのウイルスはどちらの宿主にも感染するようになったと推測できます。」とメイソン博士は説明する。
感染の診断法を開発するために、メイソン博士の研究チームは、ペンシルバニア大学獣医学部に来院する、飼い主のはっきりした飼い犬の様々な血統から血液サンプルを採取した。リンパ腫があった48頭と健康であった41頭の飼い犬について、研究チームが最初に調べたのは、ウイルスが持つタンパク質の殻であるEBVカプシドに特異的な抗体の有無であった。このテストは、ヒトがEBVウイルスに曝露した時に臨床医が使用するのと同じ方法を採用した。その結果、リンパ腫のある犬の8例と健康な犬の3例に、高レベルの抗EBV外殻タンパク抗体が観察され、過去に一定の割合でEBVに極似したウイルスに曝露されていたことが示唆された。抗体の検出によって、これらの犬がウイルスに曝露したことは明らかであったが、研究チームは、ウイルスが犬のリンパ腫と直接関連性を持つかどうかを追究した。
ヒトのリンパ腫内にウイルスの構成要素(DNAを含む)が見つかれば、腫瘍とウイルスの関連性が明白になるので、ペンシルバニア大学の研究チームは、犬のモデルにおける腫瘍とウイルスの関連を精査している。彼らは、特定のDNAの配列を増幅するPCRを用いて、B細胞リンパ腫を発症している犬としていない犬のリンパ節を解析した。リンパ腫のある犬の二例で、DNAの部分配列が、EBVと同様であることが判った。健康な犬からは、同様の配列を見つけることは出来なかった。同じテストを、別の系統のEBVのDNAについて行なったところ、リンパ腫のある犬の9例のうち3例に、EBV様のDNA配列が見つかった。リンパ腫がある犬の9例のうち2例には、悪性化したリンパ節からウイルスに関連するタンパクが見つかった。
ガン化したB細胞を電子顕微鏡で検査した結果、EBVに関連したヒトのリンパ腫の腫瘍細胞に観察されるのと同様のウイルス由来成分が明らかになった。これらの検討から、犬はEBV様のウイルスやEBVそのものに、自然に感染する場合があることが明らかで、それはヒトにとっても同様であることが示唆される。多くの人がウイルスに曝露しているにもかかわらず、ほんの一部にしかガンが発生しないのは、EBVが関与する腫瘍に対する遺伝子の感受性に依存することが推察される。
「特定の血統の犬を用いた更なる研究を行なって、ウイルス要因のリンパ腫への罹りやすさに関連する遺伝子因子を明らかにしようと考えています。そして、この飼い犬モデルを用いてEBV要因のリンパ腫治療の評価や、ガン化へ進む初期段階でガンを予防する治療戦略を構築することが出来ると考えています。」とメイソン博士は語る。
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