アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)(ルーゲーリック病とも呼ばれる)などの神経変性疾患の一般的な特徴は、脳と脊髄全体にわたるシナプス(脳細胞間のコミュニケーションの解剖学的部位)の進行性の損失だ。通常、シナプス損失は、記憶喪失や麻痺などの疾患の症状が出現する前に蔓延する。 脳機能が深刻に低下し始める前に広範なシナプス損失が存在する必要があるという事実は、神経系が深い機能的予備力を維持し、損傷が転換点を通過して脳の回復力が低下し始めるまで、すべてが正常に機能し続けることを示唆している。

 

しかし、この機能的予備力は、進行中の脳変性に直面して、どの程度正確に回復力を与えるのだろうか? この予備力の違いが、ALSのある人が数か月以内に衰退して死亡する理由と、天体物理学者のSteven Hawking博士(写真)のように何十年も生きられた理由を説明できるだろうか? そして、この機能的予備力を高める治療は、Hawking博士と同じく、より多くの患者が生存するのに役立つのだろうか?
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の神経科学者Graeme Davis 博士が、2020年5月6日にNeuronのオンラインで公開した新研究で、神経変性によって活性化されALSの動物モデルにおける疾患の進行を遅らせるように作用するシナプス内の強力な自己修正メカニズムを特定した。 この自己修正メカニズムを選択的に排除すると、マウスのALSの進行が劇的に加速し、寿命が50%短くなった。
このNeuronの論文は、「シナプス前恒常性は、ALS様変性のマウスモデルにおける疾患の進行に対抗する:恒常性神経保護のエビデンス(Presynaptic Homeostasis Opposes Disease Progression in Mouse Models of ALS-Like Degeneration: Evidence for Homeostatic Neuroprotection.)」と題されている。


「我々のデータは、疾患プロセスが毎日少しずつシナプスをかじり始めているにもかかわらず、神経変性が神経と筋肉の間のシナプスを正しく機能させ続ける自己修正反応を始動させる最初のエビデンスを提示するものだ。」
「我々はまた、この自己修正メカニズムが驚くほど強力であることを初めて示した。ALSのマウスの生存期間を2倍にできた」と、UCSF生化学・生物物理学のモリスヘルツスタイン特別教授であるDavis博士は述べた。

Davis博士は何十年にもわたって自己矯正的な脳の可塑性の分子基盤を熱心に追求してきた。彼のグループは現在、ALS、アルツハイマー病、てんかんを含むヒト疾患のマウスモデルにおける最初の遺伝子発見に取り組んでいる。 彼らの目標は、新発見を脳の自己修正能力を高める薬剤に活用し、ALSやその他の神経変性疾患を持つ人々の機能的予備力を高めることだ。

「自己矯正的可塑性は、ALSのような単一の疾患に特異的ではなく、あらゆる種類およびあらゆる原因の神経変性に回復力を与える可能性がある」と、Davis 博士は述べた。 「我々は脳の機能予備力を改善し、すべての人を最高の能力に引き上げ、潜在的に神経変性疾患の寿命を延ばすことができると信じている。」

筆頭著者のDavis 博士に加え、論文の共著者には、UCSFの Brian Orr氏と Anna Hauswirth氏が含まれている。 他には、UCSFのBarbara Celona氏、Richard Fetter氏、Giulia Zunino氏そしてBrian Black氏、ローレンスバークレー国立研究所(LBNL)のEvgeny Kvon氏そしてYiwen Zhu氏、LBNL及び米国エネルギー省共同ゲノム研究所のLen Pennacchio氏が含まれている。




著名な物理学者であるStephen Hawking博士は、ALSで長年生存した。

BioQuick News:Self-Corrective Mechanism at Synapse Doubles Lifespan in Mouse Model of ALS (Lou Gehrig’s Disease), Suggests New Approach to Therapy for Human Brain Diseases

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