植物は、草食動物から身を守るために有毒物質を生成する。 新研究では、イエナのマックスプランク化学生態学研究所とドイツのミュンスター大学の科学者が、野生のタバコ植物で防御物質の重要なグループであるジテルペン配糖体の生合成と正確な作用機序を「フラソミクス(FRASSOMICS)」と呼ばれる新アプローチを用いて、詳細に解明することに成功した。ジテルペン配糖体は、植物が草食動物から身を守ることを可能にしている。 この研究では、これらの植物化学物質が細胞膜の特定の部分を攻撃することを示している。 タバコ植物は、自身の毒素から身を守り、細胞膜の損傷を防ぐために、これらの物質を非常に特殊な方法で合成し無毒の形で保存するという。

 


Science の2021年1月15日号で報告された結果によると、自己毒性とそれに対する保護は、植物防御の進化において以前に考えられていたよりも大きな役割を果たしているようだ。この論文は「ジテルペノイドの制御されたヒドロキシル化により、自己毒性なしに植物の化学的防御が可能になる(Controlled Hydroxylations of Diterpenoids Allow for Plant Chemical Defense Without Autotoxicity.)」と題されている。

多くの植物は、食べられないよう自分自身を守るために化学的防御を生み出す。 これらの物質が消費する者にとって有毒である理由についてはまだほとんど分かっていなかった。 マックスプランク化学生態学研究所とミュンスター大学の研究者らは、植物がどのように毒素を産生し、自分自身を傷つけることなく組織に貯蔵するかを調査した。
特に、自己毒性のメカニズムとその予防が、草食動物に対する防御を提供する毒性特性と同様のメカニズムを共有しているかどうかを知りたいと考えた。そこで実験のために、タバコの野生種であるニコチアナ・アテヌアタ植物からジテルペン配糖体を選んだ。

「これらの物質はタバコの葉に非常に高濃度で存在する。しかし、なぜそれらがこれほど効果的な防御であるのか、なぜそれらが非常に有毒であるのかは知られていなかった。したがって、この状況は他の非常に豊富な毒素であるニコチンとは完全に異なっていた。ニコチンは特定の神経毒素だ。植物は神経と筋肉が無いため、毒素の標的にはならない。したがって、ニコチンを生成して保存しても植物自身には害はない」とイエナマックスプランク研究所で分子生態学のIan Baldwin 博士は述べている。


驚くことに、この研究者らは、ジテルペン配糖体の生合成に関与する2つのタンパク質を生成できなくなり、葉に大量に貯蔵されている防御物質を形成できないように形質転換されたタバコ植物が、顕著な自己中毒症状を示したことを発見した。それらは病気で、正常に成長することができず、もはや繁殖することができなかった。 さらなる実験で、細胞膜の特定の成分、いわゆるスフィンゴ脂質が攻撃されていたことが明らかになった。

スフィンゴ脂質の標的化
スフィンゴ脂質は、野生タバコの敵、タバコスズメガ(Manduca sexta)の幼虫を含む、すべての動植物に見られる物質だ。 研究者らは、それゆえ、スフィンゴ脂質代謝がジテルペン配糖体の標的になり得るかどうかを調べた。
実際、ジテルペン配糖体を含まない植物を食べていたManduca sextaの幼虫は、防御化学物質を含む対照を食べていた幼虫よりも著しく良く成長した。 ジテルペン配糖体を食物と一緒に摂取したManduca sexta幼虫のフラス(「フラス:frass」は、固体の昆虫の排泄物、および他の特定の関連物質を大まかに指す)の分析は、幼虫の消化中の植物毒素の分解が多かれ少なかれ植物中の物質の合成と逆の順序であることから、さらなる洞察を提供した。
植物は、防御物質を無毒な形で保管することにより、自傷行為を防いでいる。 しかし、昆虫がその植物を食べると、無毒な分子の一部が切断され、化学物質が活性化または「武装」する。 「興味深いことに、ジテルペン配糖体の生合成が不完全な植物そして毛虫の摂食のどちらの場合においても、毒素の標的はスフィンゴ脂質代謝だ。」と筆頭著者のJiancai Li博士は述べている。

スフィンゴ脂質は、多くの生理学的プロセスのメディエーターだ。 これにより、スフィンゴ脂質代謝に対するジテルペン配糖体の効果が非常に興味深いものになる。
「ジテルペン配糖体とその誘導体は、多くの農業害虫や病原菌に対して幅広い防御機能を持つことができる。同時に、糖尿病、癌、一部の神経変性疾患などの多くの人の病気も、スフィンゴ脂質代謝の上昇に関連している」と研究の上級著者の一人であるミュンスター大学の進化と生物多様性研究所のShuqing Xu博士 は述べている。「医師は、スフィンゴ脂質の代謝を阻害することにより、これらの疾患を治療するための効果的な物質を探しており、ジテルペン配糖体は、さらなる調査候補となる可能性がある。」

フラソミクス(FRASSOMICS)- 生物間の相互作用を研究するための新しい強力なツール
幼虫のフラスの分析は、この研究で成功するための鍵であることが証明された。 科学者らは、この新しいアプローチを「フラソミクス(FRASSOMICS)」と呼んでいる。これは、フラス(幼虫の糞)とメタボロミクスの組み合わせであり、生物のすべての代謝物を分析する。
「この研究から、フラソミクスは非常に強力な研究ツールになり得ることがわかった。幼虫のフラスの分析は、ある生物が生成するものが消費する生物によってどのように代謝されるかについての代謝の手がかりを提供する」とBaldwin 博士は述べた。
科学者らは、植物、昆虫、微生物の間の生態学的相互作用をよりよく理解するために、植物と昆虫の間で発生する「消化のデュエット」についてより多くの洞察を得る予定だ。

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野生のタバコの葉に乗ったタバコスズメガ(Manduca sexta)の幼虫:幼虫のフラス(小さな黒いボール)の詳細な化学分析により、幼虫で毒素がどのように活性化されるかが明らかになり、植物での毒素の生合成の手がかりが得られた。 消化と比較して逆のプロセスで「消化デュエット」とも呼ぶ。 (Credit: Anna Schroll)

BioQucik News:How Plants Produce Defensive Toxins Without Harming Themselves; Researchers Elucidate Biosynthesis & Mode of Action of Diterpene Glycosides in Wild Tobacco

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