フィンランドのオーボ・アカデミー大学(Åbo Akademi University)の研究チームが、細胞接着に関与するとされてきたタンパク質「タリン-1(Talin-1)」について、意外な新発見を報告しました。細胞生物学教授のレア・シストネン教授(Professor Lea Sistonen)と細胞生物学の講師であるエヴァ・ヘンリクソン准教授(Docent Eva Henriksson)を中心とする本研究チームは、タリン-1がこれまで知られていたように細胞の周辺部にだけ存在するのではなく、遺伝物質が存在する「細胞核(nucleus)」にも局在していることを明らかにしました。さらに、核内のタリン-1が細胞間接着を調節する遺伝子の発現に影響を与えることが示されました。

「私たちの結果は非常に驚くべきものであり、タリン-1は長年、核外のタンパク質として研究されてきたことから、その機能に対する従来の理解を覆すものでした。そのため、広範な検証が必要でした」と語るのは、本研究の第一著者であるアレハンドロ・ダ・シルバ博士(Alejandro Da Silva, PhD)です。本研究成果は2025年2月21日付で『iScience』誌に掲載され、「Nuclear Talin-1 Provides a Bridge Between Cell Adhesion and Gene Expression(核内タリン-1は細胞接着と遺伝子発現の橋渡しを行う)」というタイトルで発表されました。

タリン-1は、細胞の周辺部において機械的な力を感知し、細胞が周囲と接着することを安定化させ、体内での細胞の移動を可能にする役割を担っていることがこれまでの研究で知られていました。したがって、タリン-1が核内にも存在するという今回の発見は、今後の研究に向けたさまざまな新たな疑問を提起しています。たとえば、タリン-1はどのようにして細胞核へ移行するのか、また機械的な力を感知する能力が遺伝子発現の制御機能に必要なのかどうかなどです。

この基礎細胞生物学に関する発見は、医学的にも重要な意味を持ちます。というのも、タリン-1の変異は、がん、心筋症、血液疾患など、複数の疾患と関連していることが知られているからです。こうした背景から、すでにタリン-1は有望な創薬標的(drug target)として注目されています。そのため、タリン-1の細胞内での局在や機能に対する理解を深めることは、その治療応用の可能性を探る上で重要なステップとなります。

本研究は、2019年から2023年にかけてオーボ・アカデミー大学で実施された「CellMech:メカノスタシスにおけるセンター・オブ・エクセレンス(CellMech Center of Excellence in Mechanostasis)」プロジェクトの一環として行われました。CellMechプロジェクトは、機械的なシグナルが細胞や組織の機能にどのような影響を及ぼすかを探ることを目的としていました。

 

写真:レア・シストネン教授(Professor Lea Sistonen)

[News release] [iScience article]

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