老化や死は、細胞の傷害が少しずつ積み重なる単純な過程と考えられがちです。しかし実際の全死因死亡率は、出生直後に高く、8〜10歳頃に最も低くなった後に再び上昇するU字型の曲線を描きます。この不思議なパターンを解き明かす鍵が、血液中のDNAメチル化(DNAm: DNA methylation)にあるかもしれません。
モスクワ大学(Lomonosov Moscow State University)生命工学・バイオインフォマティクス学部のスタニスラフ・チホノフ氏(Stanislav Tikhonov)、責任著者のセルゲイ・ドミトリエフ博士(Sergey Dmitriev, PhD)らの研究グループは、「Heterogeneous Epigenetic Regulatory Patterns Link Mammalian Aging, Development, and Mortality(哺乳類の老化・発達・死亡率をつなぐ不均一なエピジェネティック制御パターン)」と題した論文をbioRxivに発表しました。研究チームは16種類のヒト慢性疾患に関連するDNAm変化を解析し、これらが「男性化・発達との負の相関(MND)」と「女性化・発達との正の相関(FPD)」という二大クラスターに分かれることを発見しました。
さらに、エピジェネティックエントロピーが寿命を通じて単調に増加する一方、ハンチントン病など一部の疾患では血液細胞組成とは独立にエントロピーが低下するなど、従来の「老化イコール損傷の蓄積」というモデルでは説明できない現象も明らかになりました。12のケースコントロール研究から集めた血液DNAmデータを性・年齢で調整して解析した結果、哺乳類35種に共通する多数のCpGサイト(特に遺伝子間領域)でU字型の年齢依存メチル化変化が観察され、死亡率曲線と並行することが示されました。
これらの知見をもとに、種や組織を横断して期待死亡率を予測する新たなエピジェネティッククロックが開発されました。発達期のエピジェネティック制御と老化、慢性疾患の根本的なつながりを明らかにしたこの成果は、将来的に介入効果のスクリーニングを効率化するツールとしても期待されています。
