アルテリウイルスは、主に非ヒト霊長類、豚、馬などの哺乳類を宿主とするウイルスの一群です。これらのウイルスは、宿主間での感染を引き起こすことで進化し、長期感染を維持しながら宿主間でより病原性を高める能力を持つとされています。一部のアルテリウイルスは、動物に肺炎や妊娠中の流産、さらには出血熱や脳炎などの深刻な病気を引き起こしますが、これまでのところヒトへの感染は確認されていません。

今回の研究では、アルテリウイルスが哺乳類細胞へ侵入し、感染を開始するために利用する重要な受容体タンパク質が特定されました。特に、この受容体に対する既存のモノクローナル抗体が感染を阻止できることが示され、ウイルス感染の予防や治療への新たな可能性が示唆されました。

研究の主な成果

研究チームは、ゲノム全体を対象としたCRISPRノックアウトスクリーニング技術を活用して、アルテリウイルス感染に必須な遺伝子を特定しました。その結果、FCGRTとB2Mという2つの遺伝子が抽出され、これらが共同して細胞表面に発現する新生児Fc受容体(FcRn)を形成することが明らかになりました。このFcRn受容体は、母体から胎児への抗体輸送を担う役割を持つ一方で、免疫細胞や血管内皮細胞にも存在し、アルテリウイルスの感染に利用されることが判明しました。

実験により、FcRnが以下の少なくとも5種類のアルテリウイルスの宿主細胞侵入に関与することが示されました。

サルアルテリウイルスの3つの異なる株
豚繁殖呼吸障害症候群ウイルス2(PRRSV-2)
馬動脈炎ウイルス(EAV)
特に、宿主細胞からFCGRT遺伝子をノックアウトするとウイルス感染が完全に阻害されることが確認されました。また、FcRnに結合するモノクローナル抗体を用いて細胞を前処理することで、感染が防止できることも示されました。

種間感染における遺伝的要因

さらに興味深いのは、FcRn受容体の種特異的な配列の違いがウイルス感染感受性に影響を与える点です。例えば、チンパンジーとヒトの遺伝子はほぼ同一ですが、その配列のわずかな差異がウイルスの感染可能性に影響を与えることがわかりました。

感染予防への展望

アルテリウイルスがヒトに感染した場合、その影響は甚大である可能性があります。しかし、今回の研究は、このウイルスの細胞侵入メカニズムを特定し、治療法開発への重要な手がかりを提供しました。特に、ウイルスが受容体に接触する初期段階を阻害することができれば、感染予防のための有効な治療戦略を構築できる可能性があります。

「感染防止の鍵となるのは、ウイルスの細胞侵入メカニズムを理解することです。既存のモノクローナル抗体が感染を阻止することを示せたのは、プレパンデミック(パンデミック前)対策として非常に有益です」とウォーレン博士は述べています。

研究の支援

この研究は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)やウィスコンシン大学のスタートアップ資金、G. Harold and Leila Y. Mathers Foundation、Burroughs Wellcome Fundの感染症病因プログラムなどから支援を受けて行われました。

共同研究者には、オハイオ州立大学、ウィスコンシン大学、スタンフォード大学、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校、ワシントン大学セントルイス校の研究者が参加しています。

画像:Adam Bailey, MD, PhD

[News release] [Nature Communications article]

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