冬眠動物の研究が示す手術不要の白内障治療法の可能性

アメリカ国立衛生研究所(NIH)とその共同研究者らは、白内障を動物モデルで逆転させるタンパク質「RNF114」を発見しました。この研究は、加齢によって一般的に発生する目の水晶体の濁りである白内障に対し、手術を伴わない治療法の可能性を示唆しています。本研究は「Journal of Clinical Investigation」誌に2024年9月17日に掲載され、論文タイトルは「Reversible Cold-Induced Lens Opacity in a Hibernator Reveals a Molecular Target for Treating Cataracts(冬眠動物における可逆的な低温誘発性水晶体混濁が示す白内障治療の分子標的)」です。

浙江大学(中国)の白内障外科医で共同研究責任者のシンタオ・シェントゥ医師(Xingchao Shentu, MD)は「白内障手術は効果的ですが、リスクが伴います。また、手術へのアクセスが困難な地域では、白内障が未治療のまま視力喪失の主要因となっています」と述べました。

研究概要

この発見は、NIHの国立眼研究所(NEI)が13線リスという冬眠哺乳類を対象に行っている研究の一環として行われました。13線リスは、網膜の光感受性細胞が主に錐体細胞であるため、色覚の研究に適しています。また、冬眠中に寒冷や代謝ストレスに耐える能力から、さまざまな眼疾患のモデルとしても注目されています。

研究者らは、冬眠中の13線リスの水晶体が摂氏4度で濁る一方、再加熱後に透明に戻ることを発見しました。これに対し、非冬眠動物(この研究ではラット)の水晶体は低温で白内障を発症しましたが、再加熱しても回復しませんでした。

冬眠動物での白内障形成は、低温ストレスに対する細胞の反応であり、体が寒冷や代謝ストレスに適応する過程の一部と考えられます。一方で人間は、低温にさらされても白内障を発症しません。

タンパク質RNF114の役割

白内障の主な原因は、水晶体内のタンパク質が誤った折り畳みをして凝集し、光を遮断・散乱・歪ませることにあります。この現象の分子メカニズムを解明するため、研究チームは13線リス由来の幹細胞を用いて「水晶体の皿内モデル」を開発しました。このモデルを用いて、タンパク質の恒常性維持に関与する「ユビキチン・プロテアソームシステム」に着目しました。

特に、RNF114はリスの再加熱時に顕著に増加し、古いタンパク質の識別と分解を促進することが知られています。この作用をラットの白内障モデルで検証したところ、RNF114で前処理した水晶体は再加熱後に急速に白内障がクリアになりました。

将来への展望

研究チームは、このメカニズムが動物で白内障を解消する可能性を示す概念実証だと述べています。今後は特定のタンパク質分解を刺激し、タンパク質の安定性や代謝回転を精密に調整する方法の開発が必要です。この仕組みは、白内障以外にも多くの神経変性疾患に関連しています。

本研究はNEIの基礎研究プログラムの支援を受け、浙江大学(中国)の研究者との共同で実施されました。

画像:十三衾リス

[News release] [Journal of Clinical Investigation article]

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