病原体は驚くべき速さで進化し、植物が持つ天然の抵抗性を次々と乗り越えていきます。もし、狙った病原体に合わせて免疫受容体を思いのままに設計できたとしたら――そんな長年の夢に一歩近づく研究成果が発表されました。中国の研究チームが、AIによるタンパク質設計と植物内での指向性進化を組み合わせ、病原体タンパク質を狙い撃ちできる「オーダーメイド」の合成植物免疫受容体を作り出すことに成功したのです。

研究の概要

本研究は、Science誌に掲載された論文「「Programmable design of synthetic plant immune receptors for pathogen protein recognition(病原体タンパク質認識のためのプログラム可能な合成植物免疫受容体設計)」」に基づきます。筆頭著者はハオチェン・ジュー氏(Haocheng Zhu)、責任著者は中国科学院遺伝・発育生物学研究所(IGDB: Institute of Genetics and Developmental Biology, Chinese Academy of Sciences)のガオ・カイシア博士(Gao Caixia, Ph.D.)です。論文は2026年7月23日にScience誌でファーストリリースとして公開されました。

天然の抵抗性遺伝子が抱える限界

作物の病害抵抗性育種は、これまで自然界に存在する抵抗性遺伝子(NLR: nucleotide-binding leucine-rich repeat受容体)に頼ってきました。しかしNLR受容体は、病原体の急速な変異によって容易に突破されてしまう上、大型で反復構造の多いロイシンリッチリピート(LRR: leucine-rich repeat)ドメインを介して病原体を認識するため、人為的に改変することが極めて困難でした。狙った病原体を認識する専用受容体を思うままに設計する、という長年の課題は未解決のままだったのです。

AIで受容体の「目」を作り替える

研究チームが着目したのは、コンパクトでモジュール性の高い「統合デコイ(ID: integrated decoy)」ドメインを持つ特殊なNLR受容体でした。イネの抵抗性受容体Pikm-1などがこれにあたります。チームはAlphaFold 3やBindCraftといったAIタンパク質設計ツールを用い、標的とする病原体タンパク質にゼロから高親和性で結合する認識モジュールを新規に設計。これをNLR受容体のIDドメインと置き換えることで、任意の病原体タンパク質を認識できる合成植物免疫受容体「SPIR(Synthetic Plant Immune Receptor)」を作り出しました。

さらにチームは、独自に確立していた植物内指向性進化プラットフォーム「GRAPE(geminivirus replicon-assisted in planta directed evolution)」を用いて、設計したSPIRの機能を植物体内で最適化し、望まない自己活性化を抑えながら免疫応答の感度を高めました。

391個設計、71個が機能

研究チームは、ウイルス・細菌・真菌・卵菌など多様な病原体タンパク質を標的として、合計391個のSPIRを設計しました。このうち71個(約18.2%)が、標的とする病原体タンパク質を認識して免疫応答(過敏感反応など)を活性化することが確認されました。GRAPEによる最適化を経たSPIRをタバコ近縁種のNicotiana benthamianaに導入したところ、植物ウイルスの一種であるトマト褐色縮果病ウイルス(ToBRFV: Tomato brown rugose fruit virus)に対して有効な抵抗性を示すことが実証されました。

研究の意義と今後の展望

本研究は、天然の抵抗性遺伝子を「探す」時代から、必要な受容体を「作る」時代への転換を示すものです。AI技術とタンパク質工学、植物内指向性進化を統合したこのプラットフォームにより、新たに出現した病原体や変異株に対しても、数週間という短期間で専用の抵抗性受容体を設計できる可能性が開けました。研究チームは、この「オンデマンド」な合成免疫プラットフォームが、次世代の耐病性作物育種における汎用的な戦略となり、世界の食料安全保障に貢献することを期待しています。

本論文はScience誌の購読制限のため本文全体を取得できず、要旨および中国科学院によるプレスリリースに基づいてまとめています。

[Science誌] [EurekAlert(中国科学院)]

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