驚異の再生能力!イソギンチャクが負傷後に元の形を取り戻す仕組みを解明
生物は ホメオスタシス(恒常性) を維持することで、環境の変化に対応しながら安定した内部状態を保つことができます。しかし、ドイツ・ハイデルベルクにある欧州分子生物学研究所(EMBL) の アイッサム・イクミ博士(Aissam Ikmi, PhD) の研究チームは、ホメオスタシスが 体の形そのものを再構築する能力にも関与 していることを発見しました。この研究では、驚異的な再生能力を持つ ヒメイソギンチャク(Nematostella vectensis) に着目し、負傷した際にどのようにして元の形に戻るのか を解明しました。研究成果は、2024年11月29日付のDevelopmental Cell に掲載されました。
論文タイトルは、「Systemic Coordination of Whole-Body Tissue Remodeling During Local Regeneration in Sea Anemones(イソギンチャクにおける局所的再生時の全身的組織リモデリングの協調)」 です。
イソギンチャクの驚異的な再生能力—形を維持するための全身調整機構
イソギンチャクは、頭や足を切断しても新たに再生 できる特異的な生物です。さらに、体を 半分に切断すると、それぞれが完全な個体へと再生 します。
このような生物の中には、失われた部分のみを再生し、残った体の形を維持する種もいます。しかし、ヒメイソギンチャクは 傷ついた部分だけでなく、無傷の部分も調整しながら、全体の形を維持するように再生する という点で独特の戦略を持っています。これは、プラナリア(扁形動物)や他の全身再生能力を持つ動物にも見られる特徴 です。
「再生とは、単に失われた部分を取り戻すことではなく、全体の機能を回復することです。」
と、イクミ博士は述べています。「ほとんどの研究は 再生のパターンやサイズ に焦点を当てていますが、形状の維持も重要な要素である ことが分かりました。」
傷が全身に影響を及ぼす?—細胞レベルでのシステム調整
この発見のきっかけは、博士研究員のステファニー・チャン(Stephanie Cheung, PhD) がヒメイソギンチャクの足を負傷させた際、負傷部位だけでなく口の周辺でも細胞分裂が活発になっている ことを発見したことでした。これは、傷が全身的な再生シグナル を引き起こしている可能性を示唆しています。
そこで研究チームは、空間トランスクリプトミクス(spatial transcriptomics) と高度なイメージング技術 を組み合わせ、どの遺伝子が体内のどの部位で活性化されるのかを解析しました。その結果、傷が生じた部位だけでなく、体全体で分子レベルの変化が起こっている ことが明らかになりました。
この体全体の調整の程度は 傷の大きさに依存 していました。
足の損傷 → 軽微な調整
体を半分に切断 → 大規模な体の再構築
また、メタロプロテアーゼ(metalloprotease) という酵素群が、損傷が大きいほど活性化する ことが判明しました。これらの酵素は、傷の治癒を助けるだけでなく、体全体の組織を再配置し、元の形に戻すための重要な役割を果たしている 可能性があります。
「メタロプロテアーゼがこのような役割を果たすことは、これまで知られていませんでした」
と、研究の共同筆頭著者であるペトルス・ステーンベルゲン博士(Petrus Steenbergen, PhD) は述べています。
「元の形に戻る」ことの重要性—形を知覚する仕組みとは?
研究チームは、イソギンチャクの 体の長さと幅の比率(アスペクト比) を測定し、傷の回復後に常に元の形状に戻る ことを確認しました。つまり、再生後に小さくなっても、形そのものは変わらないのです。
「この結果は、生物が自身の形をどのように知覚し、それを維持するのか という、未解明の重要な問題に迫るものです」とイクミ博士は語っています。
研究チームは、今後以下の疑問を解明したいと考えています。
生物は どのように自分の形を「認識」 しているのか?
形を維持することは、どのような生存上の利点 をもたらすのか?
この調整メカニズムは 他の生物にも共通しているのか?
今後の展望—細胞の自己調整能力を活かした再生医療へ
この研究は、生物の再生能力の新たな概念 を提示するだけでなく、ヒトの再生医療にも応用できる可能性 があります。
また、本研究には以下の研究機関が協力しました。
ユトレヒト大学(オランダ):空間トランスクリプトミクスの技術提供
EMBLハイデルベルク & ドイツがん研究センター(DKFZ):バイオインフォマティクス解析
「この研究は、異なる分野の専門家が協力することで実現したものです」
と、共同筆頭著者であるトビアス・ガーバー博士(Tobias Gerber, PhD)は述べています。「異分野の知識を組み合わせることで、より深い理解に到達できました。」
画像:イソギンチャク



