私たちが一口の食事を摂るたびに、腸の免疫システムは重大な決断を迫られます。異物である病原体から私たちを守る役割を担うこれらの非常に敏感な細胞は、敵と味方を見分けるという離れ業をこなし、侵入者を排除する一方で、食物や有益な腸内細菌を寛容に受け入れています。腸が「良いもの」と「悪いもの」をどうやって区別しているのかは、長年にわたって科学者らを悩ませてきた問題です。そして今回、新たな研究が特定の腸内細胞タイプを明らかにしました。これらの細胞はT細胞とコミュニケーションを取り、T細胞に「寛容」「攻撃」「無視」のいずれかの反応を促すものであり、それらの正反対の反応がどのように引き起こされるのかを説明しています。
この研究成果は2024年12月19日付で『Science』誌に掲載され、腸の免疫システムがどのようにバランスを保っているかについて新たな理解をもたらすとともに、将来的には食物アレルギーや腸疾患の根本的な原因とメカニズムの解明につながる可能性があります。この記事のタイトルは、「Identification of Antigen-Presenting Cell-T Cell Interactions Driving Immune Responses to Food(食物に対する免疫応答を駆動する抗原提示細胞とT細胞の相互作用の同定)」です。
「大きな疑問は、“どうして私たちは食べることによって生き延びられるのか?”ということです」と筆頭著者であるマリア・C.C.・カネッソ博士(Maria C.C. Canesso, PhD)は語ります。カネッソ博士は、ロックフェラー大学のダニエル・ムシダ博士(Daniel Mucida, PhD)とガブリエル・D・ヴィクトラ博士(Gabriel D. Victora, PhD)の研究室でポスドク研究員を務めています。
「なぜ私たちの体は通常、食物を受け入れるのか、そして食物アレルギーを発症する時に何がうまくいかなくなるのか?」
腸の決断
腸の免疫システムは複雑な仕組みです。食物に対する寛容性は、抗原提示細胞(APCs: antigen-presenting cells)から始まります。これらの細胞はT細胞に対して「反応しないように」と指示を出し、そのシグナルによって、pTregと呼ばれる特殊なT細胞が生成されます。pTregは、食物粒子に対する免疫応答を鎮める役割を果たし、他の免疫細胞も巻き込んで、寛容性のメッセージを強化する一連の活動を引き起こします。しかし、どのAPCが実際に主導権を握っているのかが不明なままでは、体がどのようにして食物には寛容を示し、病原体には耐性を示すのか、その詳細を解き明かすのは困難です。
「抗原提示細胞には非常に多くのタイプがあります。」とカネッソ博士は語ります。
「どの細胞が何をしているのかを突き止めるのは、長年の技術的な課題でした。」
彼女は博士課程の学生としてムシダ研究室に所属し、この謎に取り組み始めました。同研究室では、腸が防御と寛容のバランスをどのようにとっているかに焦点を当てています。ポスドクとしては、カネッソ博士はヴィクトラ研究室にも加わりました。この研究室では、免疫細胞間の相互作用、特に細胞同士の接触をカタログ化するための技術「LIPSTIC」が開発されました。
「ヴィクトラ研究室の技術的な進歩によって、従来のツールでは把握できなかった免疫細胞のダイナミクスが理解できるようになりました。」と、粘膜免疫学研究室の責任者であるムシダ博士は述べています。
LIPSTICをこの研究課題に適応させた後、カネッソ博士とその共同研究者らは、食物に対する寛容性を促進する抗原提示細胞(APCs)を特定することに成功しました。このプロセスに主に関与していたのは、cDC1sとRorγt+ APCsの2種類の細胞です。これらの細胞は、摂取された食物由来の抗原を捕捉し、それをT細胞に提示することで、食物寛容性を保証するpTregの生成を促します。
「当初、LIPSTICを開発した目的は、ワクチンに対する抗体応答を促すB細胞とT細胞の相互作用を特異的に測定することでした」と、リンパ球ダイナミクス研究室の責任者であるヴィクトラ博士は語ります。
「それを、まったく異なる設定で適用できたのは、マリアの功績です。」
さらに、科学者らは腸内感染がこのバランスにどのような影響を及ぼすかを解明しました。マウスを使った実験では、寄生虫であるベネズエラ糞線虫(Strongyloides venezuelensis)の感染が、寛容性を促進するAPCsの割合を減らし、炎症を促進するAPCsへのシフトを引き起こすことが示されました。実際、この寄生虫に感染したマウスでは、ある食物タンパク質に初めて暴露された際の寛容性が低下し、再度そのタンパク質に曝露されたときにはアレルギー反応の兆候が見られました。
最後に、研究チームはこれらの免疫変化を支える分子シグナルを特徴づけ、APCが抗原をどのように提示し、免疫応答を調節するかに影響を与える主要なサイトカインや経路を同定しました。たとえば、感染によってIL-6やIL-12といった炎症性サイトカインが急増し、これがAPCの活動を炎症反応寄りに誘導することが明らかになりました。
この炎症性環境は、免疫システムの寛容性メカニズムを上書きしてしまうようです。
「この寄生虫感染によって、感染に対応するための非寛容性APCが増殖し、寛容性に関与するAPCを数の上で上回ってしまいます。」とカネッソ博士は説明します。
食物から食物アレルギーへ
今回の知見により、免疫システムがどのようにして食物寛容性を維持しているのかが明らかになるとともに、寄生虫感染のケースにおいては、どのようにその仕組みが崩れるのか、具体的な免疫メカニズムが浮き彫りになりました。「私たちの研究結果は、寄生虫感染が食物アレルギーを引き起こすことを示しているわけではありません」とムシダ博士は明言します。
「あくまで、免疫応答が寄生虫に集中している間に、寛容性のメカニズムが低下するということです。」
今回の発見は、食物アレルギーそのものに直接的な関連があるわけではありませんが、食物不耐症のさらなる研究に向けた基礎的な足がかりを提供しています。
「もし食物アレルギーが、腸内のAPCによる寛容性の誘導や感染への防御応答の調整がうまくいかないことに起因しているのだとすれば、将来的には、特定のAPCを操作することで、食物アレルギーを予防できる可能性があるかもしれません」とカネッソ博士は語ります。
次にカネッソ博士が注目しているのは、人生の初期段階における母子間の相互作用が、食物不耐症にどのような影響を与えるかという点です。「多くのアレルギーは幼少期に発症します」と彼女は述べます。「母乳や母親の食事由来の抗原が赤ちゃんの免疫系にどのように作用し、アレルギー発症のリスクに影響するのかを明らかにしたいのです。」



