ショウジョウバエの行動柔軟性:日照時間変動への適応を支える遺伝子の役割を解明

2024年10月16日、スイス・ローザンヌ大学(UNIL)生物学・医学学部統合ゲノミクスセンターのリチャード・ベントン博士(Richard Benton, PhD)とその研究チームが発表した論文が、ショウジョウバエが日照時間の変動にどのように適応するかを探る研究を明らかにしました。この論文は、「Circadian Plasticity Evolves Through Regulatory Changes in a Neuropeptide Gene(神経ペプチド遺伝子の調節変化を通じて進化する概日可塑性)」というタイトルで、オープンアクセス形式で雑誌 Nature に掲載されています。

地球上で広く分布する種、例えば人間を含む生物は、多様な環境変動に直面し、それに適応する柔軟性、すなわち「可塑性」によってそれを乗り越えています。この適応能力は生存にとって不可欠ですが、その分子メカニズムについては依然として解明が不十分です。本研究は、遺伝子と神経系が行動可塑性をどのように調整しているのかを解読し、環境変化に対応する広域分布種の進化や気候変動への適応を理解する上で重要な手がかりを提供します。

概日リズムの適応:ショウジョウバエ2種の比較

日照時間は季節や緯度によって変動する重要な環境要因です。特定のショウジョウバエ種は、この日照時間の変動に応じて概日リズム(1日の活動サイクル)を調整します。研究チームは、世界中に広く分布するショウジョウバエ Drosophila melanogaster(ミバエ)と、赤道近くのセーシェル諸島に生息する Drosophila sechellia(セーシェルショウジョウバエ)を比較しました。後者は12時間の一定した日照条件に適応しており、日照時間が長くなる環境では行動の柔軟性が乏しいことが知られています。

研究では、これら2種を日照16時間の長日条件に置き、その適応力を調べました。結果、D. sechellia は夕方の活動ピークを遅らせる能力を失っており、長日環境がストレスとなり繁殖率が半減することが明らかになりました。一方、D. melanogaster は繁殖力を維持し、適応能力が高いことが示されました。

適応の鍵を握るPdf遺伝子

研究チームは遺伝子スクリーニングを通じて、D. melanogaster と D. sechellia 間の行動柔軟性の違いにおける「Pdf(Pigment-dispersing factor)」遺伝子の重要性を発見しました。この遺伝子は概日活動に関与する神経ペプチドの発現を担っています。D. melanogaster のPdf遺伝子を D. sechellia のものと置き換えた実験では、D. melanogaster の長日条件下での適応能力が低下しました。この結果は、Pdf遺伝子のわずかな違いが2種の行動の違いに寄与していることを示しています。Pdf遺伝子の特性は、D. melanogaster が広範囲に分布する一方で、D. sechellia が特定の環境に特化している理由を部分的に説明します。

他の動物種における行動柔軟性の可能性

さらに、Pdf神経ペプチドが高緯度で生活するショウジョウバエ種においても概日活動の柔軟性に関与していることが示唆されています。この研究は、同様のメカニズムが蚊のような他の節足動物にも存在する可能性を示唆しています。また、鳥類や爬虫類といった他の動物が行動を調整するメカニズムを解明する道筋を提供します。例えば、鳥類は人間活動による騒音に応じて鳴き声の周波数を変化させたり、トカゲが高度に応じて休息行動を変化させたりしますが、その分子メカニズムについてはほとんど解明されていません。

 [Nature article]

 

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