季節によって流行株が変わるインフルエンザウイルスに対し、毎年ワクチンを作り直す必要がない"万能"ワクチンができたら——。そんな期待を集める新型ワクチン「BPL-1357」について、米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID: National Institute of Allergy and Infectious Diseases)の研究チームが、ヒトを対象とした初めての臨床試験結果を発表しました。不活化した全粒子ウイルスを使ったこのワクチンは、第I相試験で良好な安全性プロファイルを示し、複数の亜型のインフルエンザAウイルスに対する抗体応答を誘導することが確認されました。
この研究を率いたのは、NIAID感染症研究所臨床研究部門のルカ・T・ジウルジア博士(Luca T. Giurgea, PhD)です。共著者にはマシュー・J・メモリ博士(Matthew J. Memoli, PhD)、ジェフリー・K・タウベンバーガー博士(Jeffery K. Taubenberger, PhD)らが名を連ねています。
研究チームは、季節性インフルエンザワクチンが特定の株にしか効果を発揮しないという限界を克服するため、低病原性の鳥インフルエンザウイルス4種類を含む、β-プロピオラクトン(BPL: beta-propiolactone)で不活化した全粒子ウイルスワクチン「BPL-1357」を開発しました。
今回の第I相臨床試験(NCT05027932)は、無作為化・二重盲検・二重ダミー・プラセボ対照という厳密な試験デザインで実施されました。18歳から55歳までの健康な成人45人が、筋肉内(IM)投与群、鼻腔内(IN)投与群、プラセボ群の3グループ(各15人)に分けられ、28日間隔でワクチンの初回接種とブースト接種を受けました。
安全性の面では、重篤な有害事象は一切報告されませんでした。筋肉内投与群では接種部位の痛みがプラセボ群より多く見られましたが(初回接種後87%、2回目接種後67%)、その他の有害事象(倦怠感や頭痛など)の発生率は各群でほぼ同等でした。
免疫応答については、筋肉内投与群でH3、H5、H7という異なる亜型のインフルエンザAウイルスに対する血清IgG抗体の応答率が、それぞれ71.4%、71.4%、85.7%に達しました。血清中和抗体やノイラミニダーゼ(NA: neuraminidase)特異的な抗体応答も確認されましたが、鼻腔からの分泌型IgA抗体の誘導は見られませんでした。一方、鼻腔内投与群では血清・粘膜ともに応答は軽微で、動物を用いた前臨床試験の結果と一致する傾向が見られました。
研究チームは、「今回の結果は、特定の株に限定されない広域防御ワクチンの実現可能性を示す重要な一歩だ」と述べています。今後は用量の最適化や、実際の感染・発症を防ぐ効果を検証する試験が必要とされています。季節性インフルエンザだけでなく、将来のパンデミックに備える観点からも、この"万能"ワクチンの開発動向が注目されます。
この研究は、NIH内部研究プログラム(NIH Intramural Research Program)、NIAID、NIH臨床センター、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation)の支援を受けて実施されました。
2026年10月12日にNature Communications誌に掲載されたオープンアクセス論文のタイトルは「Safety and immunogenicity of a BPL-inactivated, whole-virus, universal influenza vaccine: a randomized, double-blinded, double-dummy, placebo-controlled, phase 1 clinical trial(BPL不活化全粒子万能インフルエンザワクチンの安全性と免疫原性:無作為化二重盲検二重ダミープラセボ対照第I相臨床試験)」です。
