リボソームがmRNAをどのように「読む」のか?—新たな研究が細胞のタンパク質合成の謎を解明
細胞内でDNAは タンパク質を構築するための遺伝情報 を保持しています。その情報を元に、細胞は mRNA(メッセンジャーRNA) を合成し、その後 リボソーム がmRNAを「読み取り」、タンパク質へと翻訳します。しかし、これまで リボソームがどのようにmRNAを捕捉し、どのように読み取るのか というプロセスは視覚的に解明されていませんでした。
今回、ミシガン大学を含む国際研究チームが最先端の顕微鏡技術を駆使し、リボソームがRNAポリメラーゼ(RNAP)と連携してmRNAを捕捉する仕組みを可視化 しました。この成果は、2024年11月29日付の『Science』 に掲載されました。
論文タイトルは、「Molecular Basis of mRNA Delivery to the Bacterial Ribosome(細菌リボソームへのmRNA輸送の分子基盤)」 です。
この研究は、細菌の遺伝子発現プロセスを解明するだけでなく、将来的に 新しい抗生物質の開発にもつながる可能性 を秘めています。
リボソームはmRNAをどのように捕捉するのか?—2つの「アンカー」が明らかに
本研究では、細菌におけるリボソームのmRNA捕捉プロセスがRNAポリメラーゼ(RNAP)による「2つのアンカー機構」によって制御されている ことが明らかになりました。
これは、建設現場の監督者が、作業員が適切に鉄骨を固定しているかを二重に確認するような仕組み です。つまり、RNAPはリボソームがmRNAを確実に捕捉できるよう、2つの異なる経路で「固定」している ということです。
第一の経路:リボソームの小サブユニット(30S)は、リボソームタンパク質 bS1 を介してmRNAに結合
bS1は、mRNAをリボソーム内で適切に「展開」させる役割を持つ
第二の経路:転写因子 NusG またはそのパラログ RfaH がmRNAをリボソームに「糸を通す」ようにガイド
これにより、mRNAがリボソームのエントリーチャネルへと適切に導かれる
この発見は、リボソームが 単にmRNAを受動的に待つのではなく、RNAPと積極的に連携してmRNAを受け取る という新たな視点をもたらしました。
高度な顕微鏡技術で可視化されたプロセス—研究チームの取り組み
この研究では、各研究機関の専門性を活かした 最先端技術の組み合わせ によって、この「リボソーム-RNAP協調プロセス」を解析しました。
クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)
フランスのアルベルト・ワイクスルバウマー(Albert Weixlbaumer, PhD) 率いるチームが、超高解像度でリボソームとRNAPの相互作用を可視化
蛍光単分子顕微鏡
ミシガン大学のエイドリアン・ショヴィエ(Adrien Chauvier, PhD) とニルス・ウォルター(Nils Walter, PhD) のチームが、mRNAとリボソームの動きを追跡
mRNAを1色、リボソームを別の色で標識 し、動的相互作用をリアルタイムで解析
クロスリンク質量分析
ベルリンのアンドレア・グラツィアデイ(Andrea Graziadei, PhD) が、細胞内でのタンパク質間相互作用を解明
これらの手法により、リボソームとRNAPがどのようにmRNAを「橋渡し」しているのかを詳細に明らかにすることができました。
細菌と真核細胞の違い—抗生物質開発への応用
本研究の成果は、主に 細菌(原核生物) に焦点を当てています。
原核生物(細菌):細胞内に核を持たず、転写(RNA合成)と翻訳(タンパク質合成)が同時に起こる
真核生物(ヒトなど):DNAは核内に あり、RNAPが転写したmRNAは細胞質へと輸送され、リボソームによって翻訳
細菌では、RNAPとリボソームが極めて近い距離で連携 するため、本研究の発見は 抗生物質開発にとって重要な知見 となります。
従来の抗生物質 は、リボソームまたはRNAPを標的とするものがほとんどでしたが、細菌は 突然変異によって耐性を獲得 しやすいという課題がありました。
しかし、今回の研究によって、RNAPとリボソームの「結合インターフェース」を標的とする新しい治療法の可能性 が示されました。
「RNAP、リボソーム、mRNAの結合を阻害する化合物を開発すれば、新たな抗菌薬として機能するかもしれません。」と、ショヴィエ博士は述べています。
今後の展望—さらなる解明が期待される課題
研究チームは、今後 リボソーム-RNAP複合体がどのように完全に機能するのか を解明することを目指しています。
「今回の研究は、転写と翻訳の『初期段階の結合』を解明するものでした。しかし、この複合体がどのように再配置され、最終的に機能を発揮するのか については、まだ不明な点が残されています」とワイクスルバウマー博士は説明しています。
今後の研究により、リボソームとRNAPの動的変化や、翻訳開始後の詳細なプロセス について、さらなる理解が進むことが期待されます。
画像:mRNA(多色鎖)はリボソームで解読され、アミノ酸鎖を生成し、タンパク質(赤)に折り畳まれる。



