アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子変異「APOE4」の毒性を解明
スタンフォード大学医学部のマイク・グレイシャス博士(Mike Greicius, MD)が率いる研究チームは、アルツハイマー病に関連する遺伝子変異「APOE4」の影響を詳しく調査し、治療戦略に新たな道筋を示しました。この研究は2024年1月に学術誌Neuronに掲載されました。論文のタイトルは、「Gummy Clumps, Plaque-Attack Drugs, and Luck of the Genetic Draw(粘着性凝集物、アミロイドプラークを狙う薬、そして遺伝的要因の重要性)」です。
アルツハイマー病とアミロイドプラーク
アルツハイマー病は、主に記憶喪失や認知機能の低下を引き起こす進行性の神経疾患です。この病気の分子レベルでの特徴の一つが「アミロイドプラーク」と呼ばれる物質の脳内蓄積です。このアミロイドプラークは、発症の数年前から脳内に現れることが知られています。
長年にわたり、多くの治療薬がこのアミロイドプラークを標的として開発されました。しかし、プラークの除去だけでは症状を劇的に改善することができないことが判明し、研究者たちは新しいアプローチを模索するようになりました。
遺伝子変異APOEとアルツハイマー病のリスク
アルツハイマー病のリスクに大きく関与する遺伝子「APOE」には、主に以下の3種類のバリアント(変異型)が存在します。
APOE4: アルツハイマー病リスクを高める。
APOE3: 最も一般的で中立的な影響を持つ。
APOE2: 病気のリスクを軽減する保護効果を持つ。
特にAPOE4を持つ人は、アルツハイマー病の発症リスクが大幅に増加します。1コピーのAPOE4を持つ人は、最も一般的なAPOE3を2コピー持つ人に比べて2~3倍のリスクがあります。さらに、APOE4を2コピー持つ人はリスクが10倍に跳ね上がります。
新たな発見:APOE4の毒性
グレイシャス博士の研究チームは、56,684人の遺伝情報を分析する中で、特に注目すべき2人の被験者を発見しました。この2人は、APOE4が機能しない変異型を1コピーずつ持ち、もう1コピーは正常なAPOE3でした。この2人には次の特徴がありました。
90歳の被験者: 死後の脳検査でアミロイドプラークがほとんど蓄積していないことが確認されました。
79歳の被験者: 認知機能は正常で、脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)レベルも通常範囲内でした。
この結果から、APOE4は単に「弱い」だけでなく、脳にとって有害であることが示唆されました。
治療の可能性と今後の方向性
これまで、APOE4がアルツハイマー病のリスクを高める原因は不明でした。しかし今回の研究により、この遺伝子変異が毒性を持つ可能性が明確になり、治療法の開発に新たな方向性が示されました。
例えば、APOE4の活性を完全に抑制するのではなく、その産生を部分的に抑える薬剤が安全かつ効果的である可能性があります。このような治療法は、APOE4を2コピー持つ人々(全人口の2~3%)にとって特に有用です。
グレイシャス博士は、「今後はAPOE4が他の脂肪輸送タンパク質とどのように相互作用しているかを詳しく調べ、治療薬の開発に役立てたい」と語っています。
by Bruce Goldman, Senior Science Writer in Stanford Office of Communications



