「4万年前の氷河期を歩いていたマンモスが、最期に何を感じ、その体の中でどのような遺伝子が働いていたのか。そんな遠い過去の記憶を、最新の科学が呼び覚ましました。」

 ストックホルム大学の研究チームは、氷河期のケナガマンモスからRNA分子を抽出し、その配列を決定することに世界で初めて成功しました。これらのRNA配列はこれまでに回収された中で最も古く、シベリアの永久凍土で約4万年間保存されていたマンモスの組織から得られたものです。

2025年11月14日付の学術誌『Cell』に掲載されたこの研究は、DNAやタンパク質だけでなく、RNAも長期間保存され得ることを示しており、絶滅した種の生物学に新たな洞察を与えています。オープンアクセスとなった論文のタイトルは、「Ancient RNA Expression Profiles from the Extinct Woolly Mammoth(絶滅したケナガマンモスの古代RNA発現プロファイル)」です。

 本研究の筆頭著者であり、現在はコペンハーゲンのグローブ研究所に拠点を置くエミリオ・マルモル(Emilio Mármol)博士は、「RNAを用いることで、どの遺伝子が『オン』になっていたかの直接的な証拠を得ることができます。これは、最後の氷河期に地球を歩いていたマンモスの生命の最期の瞬間を垣間見るようなものであり、DNAだけでは得られない情報です」と語っています。エミリオ・マルモル博士はストックホルム大学でのポスドク時代、SciLifeLabや、スウェーデン自然史博物館との共同イニシアチブである古代遺伝学センターの研究者らと協力してこのプロジェクトに取り組みました。

先史時代の遺伝子を配列決定し、それらがどのように活性化されていたかを調べることは、絶滅種の生物学と進化を理解する上で重要です。長年、科学者たちはマンモスのDNAを解読してゲノムや進化の歴史を構築してきましたが、どの遺伝子が活性化しているかを示すRNA分子は、これまで手の届かない存在でした。RNAは死後数時間で分解されるほど脆弱であるという長年の定説が、絶滅種におけるRNA研究を妨げてきたのです。

エミリオ・マルモル博士は、「シベリアの永久凍土から発掘された、非常に保存状態の良いマンモスの組織にアクセスすることができました。そこに時間が止まったままのRNA分子が残っていることを期待したのです」と付け加えています。

ストックホルム大学および古代遺伝学センターの進化ゲノミクス教授であるラブ・ダレン(Love Dalén)博士は、「私たちは以前、DNA回収の限界を100万年以上前まで押し広げました。今回は、RNAシーケンシング(RNA-seq: RNA sequencing)をこれまでの研究よりもさらに過去へ遡らせることができるか探求したかったのです」と述べています。

 

史上最古のRNA配列決定

研究チームは、約4万年前に死んだ子供のマンモス「ユカ(Yuka)」の凍結した筋肉の遺骸から、組織特異的な遺伝子発現パターンを特定することに成功しました。マンモスのゲノムにある2万以上のタンパク質符号化遺伝子のうち、すべてが活性化していたわけではありません。検出されたRNA分子は、ストレス下での筋肉の収縮や代謝調節において重要な役割を果たすタンパク質をコードしていました。

「細胞ストレスの兆候が見られましたが、これは驚くべきことではありません。以前の研究で、ユカは死の直前にホラアナライオンに襲われた可能性が示唆されているからです」とエミリオ・マルモル博士は述べています。

また、研究チームはマンモスの筋肉サンプルから、遺伝子の活性を調節する無数のRNA分子も発見しました。

ストックホルム大学ウェナー=グレン研究所およびSciLifeLabのマーク・フリードレンダー(Marc Friedländer)博士は、「マイクロRNA(miRNA: microRNA)のような、タンパク質をコードしないRNAは、私たちが得た最もエキサイティングな発見の一つでした」と語ります。

マーク・フリードレンダー博士はさらに、「マンモスの組織で見つかった筋肉特異的なマイクロRNAは、古代においてリアルタイムで遺伝子調節が行われていた直接的な証拠です。このような成果が得られたのは初めてのことです」と述べています。

特定されたマイクロRNAは、発見された物質が本当にマンモス由来であることを裏付けるのにも役立ちました。

ノルウェー北極大学(UiT)附属博物館のバスティアン・フロム(Bastian Fromm)博士は、「特定のマイクロRNAに稀な突然変異を発見し、それがマンモン由来であることの決定的な証拠(smoking-gun)となりました。私たちはRNAの証拠のみに基づいて新しい遺伝子さえ検出しました。このような古い遺骸でこれほど試みられたことはありません」と指摘しています。

 ラブ・ダレン博士は、「私たちの結果は、RNA分子がこれまで考えられていたよりもずっと長く生存できることを証明しています。これは、絶滅した動物のどの遺伝子が『オン』であったかを調べるだけでなく、氷河期の遺骸に保存されているインフルエンザやコロナウイルスなどのRNAウイルスを配列決定することも可能になることを意味します」と展望を述べています。

 将来的に、研究者たちは先史時代のRNAをDNAやタンパク質、その他の保存された生体分子と組み合わせた研究を行いたいと考えています。 

エミリオ・マルモル博士は、「そのような研究は、絶滅した大型動物やその他の種に対する私たちの理解を根本的に塗り替え、これまで凍結されていた生物学の隠された層を明らかにするでしょう」と締めくくりました。

[News release] [Cell article]

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