生体サンプルを SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にかけて膜に転写し、抗体で解析することは多々あると思います。このイムノブロット法は、抗体を活用するための基本的方法のひとつですが、難しいと敬遠される方もおられます。それは、実験操作の煩雑さだけでなく、何箇所か失敗しそうなステップを通らなければならないからです。それから自動化が難しいことも理由の一つです。 

 

昔、ブロッティングが大嫌いな同僚がいて、当時は抗体ではなくてエドマン分解用のサンプル調製でしたが、電気泳動後のアクリルアミドゲルをすりつぶしてトリプシン消化していました。今ではプロテオミクス実験法として確立していますが、トリプシン消化物をそのまま HPLC にかけて分取するので、カラムがあっという間に劣化し、ほぼ使い捨てという感じでした。

皆さん、転写するところは気を使うようです。せっかく電気泳動したサンプルをブロット膜に転写したら泡だらけでまともに移ってなかったり、あるはずのバンドが全く見えないというトラブルはよくあります。気泡を避けるためには、ブロット用バッファーをたくさん使いますが、セミドライではなくてウエットタイプの転写装置が良いです。

しかし、セミドライとウエットタイプでは転写の条件を変える必要があり、ブロット用バッファーに SDS を加えると、ゲルからのたんぱく質溶出効率は上がりますが、ブロット膜でへの保持が低下してバンド消失に至ることもあります。

それから、転写後は一度たんぱく質パターンを染色してみることをお薦めします。テフロン系の PVDF 膜ではクマシーブリリアントブルー(CBB)、ニトロセルロース膜ではポンソー S で染められます。詳しくは拙著(抗ペプチド抗体実験プロトコールまたは抗ペプチド抗体ベーシック)をごらんください。意外と軽視されがちなのがサンプル調製の段階です。

イムノブロットでは、抗体との正常な結合、すなわち抗原性を保つ以前に、抗原部位を含むたんぱく質が無傷である必要があります。

SDS-PAGE では、たんぱく質が分解酵素で切断されると移動度が変わってしまいます。等電点電気泳動を一次元目とする二次元電気泳動ではたんぱく質の電荷が一つ変わっただけでスポットの位置がずれることもあります。

したがって、電気泳動用のサンプルを調製する際は、内在する分解酵素等を不活化するとともに酸化などの化学修飾を極力避けることが重要です。

基本は、温度を下げて(氷漬けで)手早く操作することです。浮遊細胞ならば氷冷下で5%〜10%のトリクロロ酢酸(TCA)処理(1時間程度)をしてから、 SDS あるいは高濃度尿素を含む電気泳動用バッファーに溶かします。TCA 処理によって内在性分解酵素の多くが不活化され、電気泳動的に無傷なたんぱく質が調製できます。しかし、TCA 処理を長時間すると抗原性は損なわれてきます。1時間程度が程よい処理時間です。調製したサンプルは、すぐに電気泳動するか、分注して凍結保存します。グリセロールを含みサンプル量も少ないので超低温での保存が安全です。凍結融解は繰り返さないようにしてください。 

電気泳動した後のサンプルは、ブロッティングしてPVDF膜ならば CBB、ニトロセルロース膜ならばポンソー S で染色して泳動パターンを記録、脱色してから20mg/mL の牛血清アルブミン溶液に浸してブロッキングします。イムノブロットをすぐにおこなわずブロット膜を保存するときは、中性バッファー(TBS、PBS など)で洗浄し、1mM ジチオスライトール( DTT)を含むバッファー中で冷蔵保存します。実際には、乾かない程度少量のバッファー中でポリエチレンシートに封じておきます(ポリシーラー使用)。DTT は抗原性を保つために入れておいたほうが良いです。イムノブロットを再開するときは、ブロット膜を中性バッファーで洗浄し DTT を洗いとった後、抗体を20mg/mL の牛血清アルブミンを含むバッファーで希釈してブロット膜上の抗原と反応させます。

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