たんぱく質のリン酸化は、数ある翻訳後修飾の中でも可逆的な反応の一つで、細胞内外の環境に呼応して起こるので、生体の情報伝達に関わる現象として研究されてきました。リン酸化されるアミノ酸残基は、主としてセリン(Ser; S)、トレオニン(Thr; T)およびチロシン(Tyr; Y)残基で、この反応を触媒するプロテインキナーゼは、リン酸化される部位の比較的狭い範囲を標的として、ATP からリン酸基を転移します。

 

リン酸化部位特異抗体は、リン酸化されたたんぱく質にだけ結合し、リン酸基がついてないときは、同じアミノ酸配列を認識しない抗体です。

この種の抗体を作るときは、まず、リン酸化部位を確定し、リン酸化されたアミノ酸を含む数アミノ酸残基を免疫原に使って抗ペプチド抗体作製を開始します。

ペプチドはどれくらいの長さが良いか?-----汎用性を高めるたいならば、短ければ短いほど良いですね。

実際、リン酸化チロシンの抗体は市販されています。これは、チロシン残基がリン酸化されたたんぱく質やペプチドを一網打尽に集めてくる実験に活用されます。リン酸化チロシンを束にしたペプチドを抗原にしてモノクローン抗体を得ていますが、良質のものを売っていますからいまさらご自分で作ることはないでしょう。同じやり方で、リン酸化されたトレオニンとセリンに対する抗体を作れるかなと誰でも考えますが、残念ながら実用的なものは難しいようです。

ちょうどこのあたりが、抗体分子の可変領域が上手く捕まえることができる限界なのでしょう。可変領域をコンパクトにしたミニ抗体ならば、低分子物質に特異的な「抗体」もできるとは思いますが、抗原に対して同等のアフィニティーが得られるかは不明です。 

一般的なリン酸化部位特異抗体の抗原デザイン-----リン酸化部位がポリペプチド鎖の付近ではなく内部にある場合は、リン酸化部位を中心に前後5アミノ酸残基を採り、システインを付加した12残基のペプチドを合成して免疫原に使います。

リン酸化部位は一般的に分子の表面に位置し抗原性も比較的高いことが多いので、リン酸化されていなくても抗体ができやすいです。

したがって、リン酸化ペプチドを免疫原にして抗体作製を進めても、得られた抗体が非リン酸化ペプチドと交叉することがよくあります。

特に、免疫を長く続けるとこの傾向が高いです。交叉性を減らしてリン酸化特異的な抗体を作るためには、リン酸化部位をペプチドの中心からずらしたり、前後5残基をもう少し縮めるなど、いくつか方法がありますが、必ずしもうまくいくとは限りません。ポリクローナルな抗ペプチド抗体の限界なのかもしれません。

モノクロがおすすめ-----リン酸化ペプチドで免疫を開始して早い時期にリンパ節等を採取してハイブリドーマを作ります。Bリンパ球の採取が早すぎると、IgM ばかりが採れてきますが、免疫開始後3週間程度で IgG も増えてくるので、このあたりで試してみるのがよろしいでしょう。スクリーニング用に免疫原に用いたリン酸化ペプチドおよび非リン酸化ペプチドをセットで準備しておきます。

とにかく、リン酸化ペプチドに対して陽性で非リン酸化ペプチドに対して陰性のクローンを ELISA でチェックして できるだけ多く集め保存します。この中から使える抗体(リン酸化たんぱく質に結合し非リン酸化たんぱく質には結合しない抗体)を選別していきます。

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