UCLAの遺伝子研究チームが共同研究の成果として、幼児の発達を阻害する稀な疾患であるIMAGe症候群に関与する遺伝子変異を同定した。偶然だろうか?同じ遺伝子に生じる変異によって、ベックウィズ・ウィーデマン症候群が発症する。この疾患は細胞の成長のスピードが速すぎて、子供が大きくなり過ぎるというものなのだ。
ネイチャー・ジェネティクス誌の2012年5月27日号オンライン版に発表された論文によると、UCLAのグループが得た知見は、無軌道かつ急速に増殖する腫瘍の細胞分裂を抑制する、新しい手立ての研究に繋がる。更には、現在では正確な診断方法が無いIMAGe症候群について、子供達を診断する新規的な方法とも成り得るのである。この発見は、UCLAデイビッド・ゲッフェン医学部のヒト遺伝学、小児科学、そして泌尿器学の教授であり、研究責任者であるエリック・ヴィライン博士には、特別な意義を持つ成果なのである。
凡そ20年前、同博士が故郷のフランスにて医学実習生であった頃、年齢の割りに大変低身長の3歳と6歳の男児を担当した。二人は親戚ではなかったが、幼児期の成長が遅く、骨の成長の停滞、副腎の縮退、通常より小さい臓器や性器、等の共通した特徴を有していた。「異常を呈する症状について、両親に説明できませんでした。私はその年、1993年から彼等が被った疾患の原因を研究し続けているのです。」とUCLA社会遺伝学研究所長でもあるヴィライン博士は語る。ヴィライン博士が遺伝学者としてUCLAに来た時も、この2人の症例がずっと頭に引っ掛かっていた。彼の良き先輩であり、後にUCLAの遺伝学者となったエドワード・マッカビー博士は、ヴィライン博士から話を聞いて、自分がベイラー大学医学部にいた頃の同様の症例を思い出した。この2人の科学者は早速3人の患者から血液サンプルを採取し、疑わしいDNAの変異を解析したが、何も発見できなかった。
ヴィライン博士とマッカビー博士は、1999年にJournal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に初めて症例を報告し、症状の特徴をまとめた「Intrauterine growth restriction子宮内成長抑制、Metaphyseal dysplasia骨幹端異形成、 Adrenal hypoplasia 副腎皮質過形成、 and Genital anomalies 生殖器奇形」の頭文字を並べて、IMAGe症候群と命名した。その後10年間で世界で凡そ20症例が報告された。しかしIMAGe症候群の原因は謎のままであった。思いもよらぬヒントが舞い込んだのは昨年のことで、それは1999年の報告に注目したアルゼンチンの臨床医、イグナシオ・ベルガーダ博士からの1本のEメールであった。
彼がヴィライン博士に話したのは、彼が診ている大家族のメンバー8人もが、報告書にある症例と同様の症状を呈していた事である。8人全員が自分たちのDNAサンプルをUCLAに提供することに同意した。ヴィライン博士は、科学の世界で将にロトくじに当たったようなものだと思ったという。同博士はUCLAの研究チームを召集して、ベルガーダ博士とロンドンの内分泌学者ジョン・アッカーマン博士とパートナーシップを組織した。「遂に、この症候群に関与する遺伝子に照準を合わせる事が出来ました。過去20年間で遺伝子シーケンス技術は随分洗練されたので、家族のDNAの全シーケンスを解析するのに、それほど手間は掛かりませんでした。」とヴィライン博士は語る。ヴィライン博士のチームは遺伝連鎖研究に着手し、次の世代に遺伝される疾患関与遺伝子マーカーを調べ、その結果、第11染色体の長大なサイトを解析する事となった。
UCLAの臨床ゲノミクスセンターは次世代DNAシーケンサーを駆使し、ほんの2週間で膨大なデータを解析し、問題の箇所となる小さな変異領域を発見した。更に同チームは、ヴィラインが1999年に報告した3症例に共通する変異領域も同定した。単遺伝子変異に起因するヒトの疾患のほとんどは、タンパクコード配列の変異が原因とされる。全エキソームのスキャンやゲノム情報のタンパク翻訳場所を研究することにより、臨床遺伝学者達は、遺伝子変異に端を発し疾患発症に至る全ての経路を解明し、明快な診断方法へと辿り着くのである。UCLAは臨床目的で次世代シーケンス技術が公営で使用できる、国内3箇所の期間のうちの1つである。
「私たちは、IMAGe症候群の症状を呈する全ての家族メンバーに共通する、染色体のほんの小さな変異領域を見つけました。これは大変大きなステップです。遺伝子シーケンスによってこの疾患のスクリーニングが出来るようになれば、早期のうちに子供達の診断が出来、適切な医療介入が可能となるのです。私たちが驚いたのは、この変異が、ベックウィズ・ウィーデマン症候群の原因である遺伝子変異と同じ遺伝子上に存在することでした。この2つの症候群の症状は全く逆の様相を呈するのも興味深いのです。」とヴィライン博士は述べる。
ベックウィズ・ウィーデマン症候群(発見した2人の医師に因んで命名された)を持って生まれた子供は、副腎の肥大と骨の伸長、そして内臓器の巨大化が特徴である。細胞成長のスピードが速いことが要因であるため、患者は若いうちにガンによって亡くなるケースが多い。この疾患は15,000人に1人の割合で発症する。「同じ遺伝子上で、逆の作用を有する病因となる変異が存在するのは、生物学的現象としては、極めて稀なのです。」とヴィライン博士は強調する。そして、「変異の発生が、我々が同定した極めて小さな箇所である場合は、IMAGe症候群を引き起こします。もし、遺伝子の様々な箇所で変異が起こっている場合は、ベックウィズ・ウィーデマン症候群を持って生まれて来ることになるのです。本当に驚くべき事実です。」と続ける。
IMAGe症候群の患者も、副腎機能の不全のため、ホルモン代替治療を行なったとしても、若い年代のうちに亡くなるケースが多い。変異点の正確な領域の発見は、ヴィライン博士とその研究チームの20年に渡る探求が成功裡に実を結んだということである。「この発見によって、一連の症状は疑いなく本当の症候群であり、私の想像による絵空事では無かった事が実証されました。」とヴィライン博士は語る。そして、「私にとって最も感慨深い事は、20年前に私が診た2人の患者が被った致死的な疾患の病因が、ついに解明された事です。臨床科学者にとって、研究成果が一番報われると思うのは、治療の手立てが見つかって、患者が少しでも症状の緩和を実感できる事なのです。」と付け加える。
ヒトの体を小さくさせ成長を停滞させるIMAGe変異の機能は、臨床的には大変興味深い応用が考えられる。ヴィライン博士は更に説明して、「我々の次の目標は、成長に関与する変異を操作して、副腎や他の内臓に発生する腫瘍の縮退を研究する事です。」と語る。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Variations in Single Gene Can Lead to Too Little or Too Much Growth



