細胞は、その大切な内容物を保護することにかけては実に優れている。その結果、細胞を壊すことなく、医薬、栄養物、バイオセンサーなどを細胞膜壁を通して内部に届けることはきわめて難しい。その一つが、2008年に発見された効果的な方法で、純金のナノ粒子を特殊なポリマーの薄い層に包むという方法だった。しかし、なぜこの組み合わせがそれほどうまく働くのか、どのようにして細胞膜をくぐり抜けるのかについては誰も確実なことは分かっていなかった。
ところが、MITと、スイスのEcole Polytechnique de Lausanneの研究チームがこのプロセスの動きを解明したばかりか、使えるナノ粒子の大きさの限界も突き止めた。研究チームの分析は、Reid Van Lehn、Prabhani Atukorale、Yu-Sang Yang、Randy Carneyの各大学院生とAlfredo Alexander-Katz、Darrell Irvine、Francesco Stellacci各教授が執筆し、2013年8月5日付学術誌「Nano Letters」オンライン版に掲載された研究論文に詳しい。
筆頭著者のVan Lehnは、「これまでその機序は分かっていなかった。今回の研究作業では、私たちは過程をできるだけ単純化し、細胞膜に永久的な損傷を残すことなく、また細胞を破ることなく、純金ナノ粒子に細胞膜の壁を通り抜けさせる陰の力の解明に努めた」と述べている。そのために、研究チームは、研究室での実験とコンピュータでのシミュレーションを繰り返した。
その結果、重要な最初のステップは、ポリマーに覆われた純金ナノ粒子が脂質と融合することだと実証した。この脂質とは自然の脂肪、ワックス、ビタミンなどの複合体で細胞の壁を形成している物質である。さらに、チームは、細胞の壁を通り抜けることができるナノ粒子のサイズ上限も実証した。このサイズ上限は純金ナノ粒子を覆っているポリマーの組成によって決まるものだった。金粒子をコーティングしているポリマーは、疎水性と親水性の成分を持った化合物が一分子の厚みしかないという単分子層を形成しており、これが粒子の表面を覆っており、また、コーティングに使えるポリマー化合物はいくつかあって、そのいずれも働いた。MITの材料科学工学准教授のDr. Alexander-Katzは、「細胞は表面に取り付いた物質を呑み込む傾向があるが、細胞膜を通して細胞内に取り込まれる物質が大きな損傷を残さないことはまれだ」と述べている。
IrvineとStellacciは2008年に、単層分子でコーティングした金のナノ粒子であればそれが可能なことを実証しており、2人はその後もその理由を解明しようと研究を続けてきた。研究チームは、「ナノ粒子そのものは完全にコーティングされているため、それが金の粒子であろうとなかろうと違いがなく、単に金のナノ粒子が作りやすかったというだけのこと」だと述べている。しかし、金粒子に治療効果があるという証拠もあり、それが副次的な効果を挙げている可能性もある。さらには、金粒子はX線吸収率にも優れており、がん細胞内部に入り込むことができれば、X線束を照射して、加熱し、細胞を内側から破壊することもできる。Koch Institute for Integrative Cancer Researchメンバーで、材料科学工学と生体工学の教授を務めるDr. Irvineは、「実際に金が有効なのかもしれないということだ」と述べている。
しかも、ナノ粒子に細胞膜を通過させる機序そのものが粒子の通過後直ちに通り道を塞ぐ機能も果たしている可能性も示されており、Van Lehnは、「ナノ粒子が細胞膜を通過後、ごく微小な分子でさえ、その通り道から漏れ出ることはない」と述べている。Dr. Irvineは、「私の研究室メンバーは、このナノ粒子が細胞膜を通り抜ける機序を利用し、医薬をコーティングのポリマーに結合させることで細胞内に送り届ける方法の開発に関心をいだいている」と述べている。しかし、ナノ粒子が細胞内に取り込まれる過程を有用なものにするためには、ナノ粒子のコーティング・ポリマーに結合する細胞のタイプを選ぶ機能を持たさなければならない。Dr. Irvineは、「どんな細胞にでも結合してしまうようでは何の役にも立たないが、医薬のターゲットとしているタイプの細胞と選択的に結合させることができれば非常に役立つといえる」と述べている。Van Lehnは、「この研究成果のもう一つの応用例として、特定の細胞の表面にバイオセンシング分子を貼り付ける、または細胞内に埋め込むということが考えられる」と述べている。このようにして、疾患の兆候、あるいは代謝過程の衰退を示すタンパク質など特定の生化学マーカーを検出したり、監視したりすることができる。Dr. Irvineは、「一般的には、ナノ粒子のコーティング表面に接着することで、通常は細胞膜を通して細胞内に入り込むことができないような分子が細胞内に入り込めるカギを用意することができる」と述べている。イラストレーションは、疎水性と親水性双方の基を持った材料 (青緑、黄、赤) の単分子層でコーティングされた金ナノ粒子 (オレンジ色) が、脂質 (白と青) でできている細胞膜を通過する様子を描いている。画像はReid Van Lehn提供。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Gold Standard for Damage-Free Delivery of Drugs or Biosensors to Cell Interior



