Howard Hughes Medical Institute (HHMI) の研究チームが開発した新しい検査法は、一滴の血液でヒト・ウイルス206種類すべての過去現在の感染を判定することができる。この新検査法は、個別ウイルス感染を1種ずつ調べる現行の検査法に比べてはるかに効果的であり、個別ウイルスの感染を分析するのではなく、一度のテストで患者がどのウイルスに感染したことがあるかを知ることができる。そのため、予断をもって検査することもなく、予期しない病原体が原因となっている場合にも的確に判定し、さらには集団検診によってウイルス感染を分析比較も可能で、しかも、この包括的な分析が血液サンプル一件あたり$25程度という低コストで済む。

 

ボストン市のBrigham and Women's Hospitalに所属するHHMI研究者、Dr.Stephen Elledgeの率いる研究チームはVirScanと呼ばれる新検査法を開発した。Dr.Elledgeは、「私達の研究チームは、一度に一種類のウイルス感染しか判定できない従来の手間のかかる検査法に代わり、一度の検査で患者の血清の分析から過去に感染したウイルスをすべて判定できる検査法を開発した」と述べている。彼の研究チームは、すでにアメリカ、南アフリカ、タイ、ペルーでVirScanを使って569人の血液サンプル検査の試験実施を行っており、2015年6月5日付Science誌に新検査法の説明と研究報告を投稿している。このScience誌の記事は、「Comprehensive Serological Profiling of Human Populations Using a Synthetic Human Virome (合成ヒト・ウイルス叢を用いた人間集団の包括的血清プロファイリング)」と題されている。


このVirScanは、血液をスクリーニングし、人間に感染する206種のウイルスすべての抗体を一度に検出するが、免疫系は、あるウイルスと初めて接触するとそのウイルスに対応した固有の抗体をつくり始め、感染が完全に消えても何年あるいは何十年後もその抗体をつくり続けることができる。つまり、VirScanは免疫系が現に戦っているウイルス感染だけでなく、過去のウイルス感染の履歴を明らかにすることができるのである。

Dr. Elledgeの研究チームは、この新しい検査法の開発のためにウイルス・タンパク質の様々なセグメントをエンコードしているDNAの93,000個を超える数の断片を人工的に合成した。さらに、そのDNA断片をバクテリオファージと呼ばれる細菌に感染するウイルスに注入した。注入されたバクテリオファージの一つ一つが、ペプチドと呼ばれるタンパク質セグメントを一種類だけつくり出し、つくり出したペプチドをその表面にディスプレイした。それらバクテリオファージが全体として、1,000種を超える既知のヒト・ウイルス株種のそれぞれに含まれているタンパク質シーケンスをすべてそれぞれの表面にディスプレイしていた。

血液中の抗体は、ウイルス表面のタンパク質に埋め込まれているエピトープと呼ばれるウイルス固有の特徴を判別して標的ウイルスを見つける。VirScan分析を行うには、ペプチドをディスプレイしているバクテリオファージ全種が血液サンプルと混り合うようにしなければならない。血液中の抗ウイルス抗体は、ディスプレイされているペプチド中の標的となるエピトープを見つけ、結合する。さらに、抗体を回収し、洗浄すると抗体に結合しているバクテリオファージ以外の物が洗い流される。この残ったバクテリオファージのDNAシーケンシングを行うと、抗体がどのウイルス・タンパク質に結合しているかを判定できる。これによって、感染、接種を含め、人の免疫系がこれまでに接触したウイルスがすべて明らかになる。

Dr. Elledgeは、シーケンシングが最大効率で行われたとして、100件の血液サンプルを処理するのには2日ないし3日かかると推定しているが、この検査法が今後さらに進歩すればアッセイのスピードも必ず向上すると期待している。さらに研究チームは、この検査法を試験するため、HIV、C型肝炎などのウイルスに感染していることが判明している患者の血液サンプルを分析した。Dr. Elledgeは、「結果は大成功だった。感度で95%から100%の範囲を達成し、特異度も良好だった。陰性の患者を偽陽性と判定することもなかった。その結果から他のウイルスの検出にも自信が持てたし、その通りの結果が得られた時には間違いないと確認できた」と述べている。

Dr. Elledgeのチームは、4か国でVirScanを用いて569人の抗体を分析し、総数で1億の抗体/エピトープ作用を調べた。その結果、一人あたり平均10種のウイルスの抗体を持っていることが突き止められた。予想通り、大人には普通に見られるが、子供には見られない種のウイルス抗体もあり、子供がまだそのウイルスに接触していないことを示している。国別で見ると、南アフリカ、ペルー、タイの住民はアメリカの国民よりも保有しているウイルス抗体の種類が多い傾向があった。また、HIV感染者と非感染者を比べると、感染者の方が保有するウイルス抗体の種類が多かった。

Dr. Elledgeは、「しかし、研究チームが驚いたのは、人は誰でも同じウイルスに対しては驚くほど似た抗体反応をすることで、人が違っても抗体は同じウイルス・ペプチドのアミノ酸を認識していた。この研究では、過去のウイルス研究で発見されたよりもはるかに多数のウイルス・タンパク質と抗体/ペプチドとの相互作用を発見した」と述べている。この相互作用は驚くほど再現性が高く、そのために研究チームは分析精度を高め、VirScanの感度を高めることができた。Dr. Elledgeは、「さらにサンプル分析を繰り返していけばこの検査法を改善していくことができる」と述べている。

また、ウイルスのエピトープに関する研究成果は、ワクチンの開発にも重要な意味合いを持っている。Dr. Elledgeは、「私達のチームが開発した手法の応用分野は抗ウイルス抗体にとどまらない」と述べており、研究室では、同じ手法を使って、がんに伴うある種の自己免疫疾患で自分の体の組織を攻撃する抗体を探している。また、他のタイプの病原体に対する抗体をスクリーニングするのにも似た手法が使える。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
New Method Detects Current and Previous Infections with Any of All 206 Known Human Viruses in $25 Test of Single Drop of Blood

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