Johns Hopkins大学の研究チームは、マウスでの研究で新しく信号伝達経路細胞を突き止めた。おそらく人間も含めて哺乳動物は、傷の治癒過程でこの信号伝達経路を通して毛嚢や皮膚の再生をしていると考えられる。2015年8月6日付Cell Stem Cell誌オンライン版オープン・アクセス特集論文として発表されたこの研究は、将来的に火傷その他の傷害事故で傷痕を残す毛髪、皮膚、その他の器官組織再生を促進するようになる可能性があるとしている。

 

この論文は、「dsRNA Released by Tissue Damage Activates TLR3 to Drive Skin Regeneration (組織損傷で放出されたdsRNAによるTLR3活性化で皮膚再生促進)」と題されており、首席著者で、Johns Hopkins University School of Medicine のAssociate Professor of Dermatology を務めるLuis A. Garza, M.D., Ph.D.は、「この研究で、タンパク質[TLR3"> が皮膚の再生時に主要制御因子として機能することを発見した。このタンパク質を活性化する医薬があれば、傷の治癒を促進し、皮膚と毛嚢の再生を促進することで、傷痕を小さくする絶大な効果が考えられる」と述べ、さらに、「私達の研究は、損傷を受けた皮膚が二重鎖RNA (dsRNA) を放出し、通常はある種のウイルスが運ぶ遺伝子情報を持つこのdsRNAをToll様受容体3 (TLR3) が検知する、という知識に基づいている」と述べている (画像はTLR3タンパク質の構造を示す)。他のケースでは、TLR3は特定の病原体を検知し、免疫系を活性化するという重要な役割を持っているが、組織の傷害に反応して遺伝子IL6やSTAT3を活性化し、毛嚢の再生を促進する働きもある。


さらに、TLR3は、Wnt、Shh両信号伝達経路の分子や、エクトジスプラシン・タンパク質をつくり、皮膚の成長に重要な役割を果たすEDARと呼ばれる遺伝子など、毛髪の成長に関わる他の分子も活性化する。 Dr. Garzaは、「成長段階の胚は、器官や皮膚を作るのに必要なすべての指令を細胞中の遺伝物質に保持している」と述べている。この経路に関する知識が深まれば、成長段階初期の信号を再活性化し、傷の治癒を促進する治療法を確立することもできるかも知れない。

Dr. Garzaは、「人の障害は傷痕が原因ということも多い。心臓発作の後で血流を正常に戻すことはできるが、ほんとうに問題になるのは心臓に残る発作の傷痕だ。私達、再生医療の分野の研究者は、そのような場合に組織再生の引き金になり、あるいは強化する方法はないものかと考えている」と述べている。この研究チームは、2つのグループのマウスで治癒した傷の特定遺伝子のタンパク質発現を比較した。

1つのグループは、マウスにもラビットにも見られる負傷後の皮膚と毛嚢の再生の過程、つまり、負傷によって引き起こされる毛の新生が遺伝的に優れている。もう1つのグループではこの能力を欠いたマウスを同系交配したグループだった。毛の再生能力を持ったマウスではTLR3の発現が、能力を持たないマウスに比べて3倍も高かった。他の実験では、健康な人の皮膚細胞サンプルに比べると、ひっかいた人の皮膚細胞サンプルではTLR3の発現が5倍も高かった。
また、マウスの皮膚の傷に人工dsRNAを加えたところ、再生毛嚢の数が大幅に増えた。さらに、dsRNAを破壊する物質を加えたところ、再生毛嚢の数が減った。また、TLR3欠損のマウスでは毛嚢再生がほとんどまったく見られなかった。

Dr. Garzaは、「皮膚の損傷が再生の引き金になることは以前からよく知られていることだ。化学薬品による皮膚剥離、皮膚磨耗、レーザー処理など、美容皮膚学的な処理は、いずれもその原理を何十年も前から応用してきている」と述べ、さらに、「私達の研究結果から、このような賦活テクニックはいずれもdsRNA経路を通して作用すると考えられる。また、dsRNAは、加齢した組織の賦活化刺激や、火傷患者の毛嚢成長では、dsRNAが直接失われた組織構造を再生するために用いられていることも考えられる」と述べている。

Dr. Garzaは、「この研究の成果を臨床に橋渡しすることは、そういう作業がすでに始まっているのだから、将来的見通しも明るい」と述べている。すでに医薬メーカーは、TLR3を活性化し、免疫系を起動させる医薬の開発を進めており、そういった医薬が組織再生を促進するかどうか試験することもできる。ただし、Dr. Garzeは、研究チームの発見を臨床に適用するのはもう少し試験を重ね、チームが発見した経路を標的にする医薬の開発と試験が終わるまで待つべきだと慎重な態度を崩さない。また、この研究の内容は、負傷後の傷痕とは無関係な症状や、男性型脱毛症で毛嚢が欠損していく場合などには適用できない可能性もはっきりと指摘している。

この研究論文の他の著者として、Johns Hopkins大学の研究者、Amanda M. Nelson, Ph.D.、Sashank K. Reddy, M.D., Ph.D.、Tabetha S. Ratliff、M. Zulfiquer Hossain, Ph.D.、Adiya S. Katseff、Amadeus S. Zhu、Emily Chang、Sydney R. Resnik、Carly Page, Ph.D.、Dongwon Kim, Ph.D.、Alexander J. Whittam、Lloyd S. Miller, M.D., Ph.D.らがいる。また、この研究は、次の機関・団体の援助を受けて行われた。National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases、Department of Defense's Armed Forces Institute of Regenerative Medicine、Northrup Grumman Electronic Systems、Alliance for Veterans Support Inc. (Veteran/Amputee Skin Regeneration Program Initiative)、Thomas Provost, M.D., Young Faculty Development Fund of the Johns Hopkins Department of Dermatology。 Johns Hopkins大学は、上記で述べた知的財産に対する特許を出願した。また上記団体との関係は、Johns Hopkins大学が自身の「利害の抵触」方針に従って管理している。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Double-Stranded RNA Activates Toll-Like Receptor 3 (TLR3) to Promote Regeneration of Skin and Hair Follicles During Wound Healing; Drugs to Turn On TLR3 Might Further Promote Tissue Regeneration in Patients Scarred from Injury, Hopkins Study Suggests

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