癌の治療において、私たちの体に備わる免疫システムの力を最大限に引き出すことは非常に重要です。しかし、強力な抗腫瘍免疫を誘導する鍵となる特定の免疫細胞は、腫瘍内にはごくわずかしか存在しないという大きな課題がありました。もし、腫瘍内に豊富に存在する他の免疫細胞たちに、その役割を肩代わりさせることができたらどうなるでしょうか?今回、イギリスを中心とした研究チームが、まさにそのブレイクスルーとなる画期的なアプローチを報告しました。

 

腫瘍内に眠る免疫細胞を目覚めさせる新戦略

フランシス・クリック研究所などのグループを率いるトーマス・カストロ=ドピコ(Tomás Castro-Dopico)博士とカエターノ・レイス・エ・ソウザ(Caetano Reis e Sousa)博士らは、新たな研究論文「Coupling dead cell recognition to Fcγ receptors augments anticancer immunity(死細胞認識とFcγ受容体の連結による抗癌免疫の増強)」を2026年5月20日にNature Cancer誌にて発表しました 。

抗原提示細胞(APC: Antigen-presenting cell)の一種である1型通常樹状細胞(cDC1: Type 1 conventional dendritic cell)は、癌に対するCD8陽性T細胞を交差プライミングし、免疫応答を引き起こすための重要な役割を担っています 。cDC1は、細胞の死骸に露出したF-アクチンというタンパク質を、DNGR-1(別名CLEC9A)と呼ばれる受容体を介して認識し、死んだ細胞の抗原を取り込んで交叉提示(XP: cross-presentation)する特殊な能力を持っています 。しかし、ヒトやマウスの腫瘍においてcDC1は非常に数が少なく、これが十分な抗癌免疫を発揮するための制限要因となっていました 。

そこでカストロ=ドピコ博士とレイス・エ・ソウザ博士らの研究チームは、腫瘍内に豊富に存在する「cDC2」や「単球由来細胞」といった他のAPCの機能を再プログラミングできないかと考えました 。

 

Fc-DNGR-1を用いた「橋渡し」アプローチ

研究チームは、F-アクチンとFcγ受容体(FcγR: Fcγ receptor)を物理的に橋渡しする「Fc-DNGR-1融合タンパク質」や「抗F-アクチン抗体」などの試薬を開発・使用しました 。これらの試薬を用いることで、通常は死細胞の取り込みが得意ではない豊富なAPCたちを誘導し、壊死した細胞の破片を内部に取り込ませ、癌に関連する抗原を効率的にXPさせることに成功しました 。

生体内(in vivo)の実験において、投与されたFc-DNGR-1は壊死した腫瘍領域にしっかりと蓄積し、腫瘍内に存在するFcγRを発現したAPCのすぐ近くに位置することが確認されました 。

さらにマウスの癌モデルを用いた実験では、このF-アクチンとFcγRを連結させるアプローチが、化学療法(ドキソルビシンなど)や放射線療法といった「細胞死を誘発する既存の治療法」と相乗的に作用し、抗癌免疫を大幅に増強することが実証されました 。

本研究の成果は、死んだ癌細胞の認識をFcγRシグナル伝達に意図的に結びつけることで、腫瘍微小環境を有利にリモデリングし、抗腫瘍免疫を活性化する次世代の癌免疫療法の開発に向けた重要な一歩となります 。

https://www.nature.com/articles/s43018-026-01168-5

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