生体脳内の遺伝子活性を解析する新技術—てんかん治療と脳疾患研究に革新

フューチャーニューロ(FutureNeuro)、アイルランド国立脳科学研究センター(Research Ireland Centre for Translational Brain Science)、およびRCSI医科大学(RCSI University of Medicine and Health Sciences) の研究者らが、生きたヒト脳内の遺伝子活性を高解像度でプロファイルする画期的な技術を開発しました。本研究は、2024年11月14日にJCI Insight誌に掲載されました。 論文タイトルは「High-Resolution Multimodal Profiling of Human Epileptic Brain Activity Via Explanted Depth Electrodes(摘出された深部電極を用いたヒトてんかん脳活動の高解像度多モードプロファイリング)」です。

 この革新的なアプローチは、てんかんなどの神経疾患の理解と治療に新たな可能性をもたらします。

 

生体脳内の遺伝子活性解析の課題

これまで、ヒト脳の遺伝子活性を調べるには、手術で摘出した組織や死後の脳サンプルを用いる必要がありました。しかし、これらの方法では、生きた脳内でどの遺伝子が活性化・不活性化されているのかをリアルタイムに解析することが困難でした。

今回の研究では、てんかん患者の脳に埋め込まれた電極を利用し、RNAやDNAといった分子データを取得することで、リアルタイムの遺伝子活動の「スナップショット」を取得することに成功しました。

 

てんかん患者の脳内での実験—電極を活用した新たなアプローチ

本研究では、てんかん手術のために患者の脳に埋め込まれた深部電極を活用しました。これらの電極は、発作の発生部位を特定するために臨床的に使用されるものですが、同時に脳内の遺伝子活性を解析するための貴重なツールとなります。

この方法により、特定の脳領域で活性化されている遺伝子と脳の電気的活動を直接リンクさせることが可能になりました。特に、てんかん発作時にどの遺伝子がどのように制御されているのかを明確に示すことができました。

フューチャーニューロのディレクターであり、RCSI分子生理学・神経科学教授のデビッド・ヘンシャル教授(Professor David Henshall)は、次のように述べています。

「本研究は、てんかん研究における大きな前進を示しており、生体脳内の遺伝子活性を直接検出する新たな方法を提供します。この技術は、従来の脳画像検査や脳波(EEG)検査を補完し、手術の意思決定をより精密に導く重要な手段となる可能性があります」。

 

てんかん手術の精度向上へ

アイルランドでは約40,000人がてんかんを患っており、その3分の1は薬物治療で発作をコントロールできません。このような患者にとって、外科的手術が最も有効な選択肢となることがあります。しかし、手術の成功は、発作を引き起こしている脳領域を正確に特定できるかどうかにかかっています。

本研究の新技術を用いることで、手術前に脳のどの領域が発作を引き起こしているのかを分子レベルで解析し、精度の高いマッピングを実現できます。これは、てんかん外科手術の成功率向上に直結する成果といえます。

 

てんかんを超えた応用可能性—アルツハイマー病やパーキンソン病の研究へ

本研究は、てんかんにとどまらず、アルツハイマー病(Alzheimer’s)、パーキンソン病(Parkinson’s)、統合失調症(schizophrenia)などの神経疾患研究にも応用可能です。 

これらの疾患の多くは、特定の脳領域における遺伝子発現や分子異常が関与していると考えられています。今回の手法を応用すれば、生きた脳内で分子レベルの変化を解析できるため、疾患の新たな治療ターゲットを発見する可能性があります。

 

国際共同研究による成果

 この研究は、ヘンシャル教授(Professor Henshall)と南デンマーク大学(University of Southern Denmark)ゲノム生物学教授のビジャイ・ティワリ教授(Professor Vijay Tiwari)が主導し、グローバルな研究ネットワークの協力のもとで実施されました。

 

共同研究機関には、

ボーモント病院(Beaumont Hospital, Ireland)

ブラックロッククリニック(Blackrock Clinic, Ireland)

クイーンズ大学ベルファスト(Queen’s University Belfast, UK)

南デンマーク大学(University of Southern Denmark, Denmark)

デンマーク先端研究所(Danish Institute for Advanced Study, Denmark)

など、世界的な神経科学研究の拠点が名を連ねています。

この成果は、国際的な研究協力の重要性を改めて強調するものであり、脳科学の分子レベルでの理解を大きく前進させる画期的な一歩となりました。

 

まとめ 

新技術により、生きたヒト脳内の遺伝子活性をリアルタイムで解析可能に。

てんかん患者の脳に埋め込まれた電極を活用し、発作時の分子レベルの変化をマッピング。

てんかん外科手術の精度向上に貢献し、患者の治療選択肢を広げる可能性。

アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症などの神経疾患研究への応用も期待。

この研究は、神経疾患の診断・治療における新たな時代を切り開くものとなるでしょう。

 

[News release] [JCI Insight article]

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