国際研究で脳の構造を形成する数百の遺伝的変異を特定

アメリカ・南カリフォルニア大学(USC)およびオーストラリア・QIMRバーグホーファー医学研究所の研究者らは、脳の形成に関わる数百の遺伝的変異を明らかにする国際研究を実施しました。 本研究は、DNAと脳の体積に関する史上最大規模の研究の一つであり、記憶や運動機能、依存行動などを制御する「深部脳(subcortical brain)」の主要構造を形成する254の遺伝的変異を特定しました。研究成果は、2024年10月21日付で『Nature Genetics』誌に掲載されており、論文タイトルは「Genomic Analysis of Intracranial and Subcortical Brain Volumes Yields Polygenic Scores Accounting for Variation Across Ancestries(頭蓋内および皮質下脳体積のゲノム解析が、祖先ごとの変異を説明する多遺伝子スコアを明らかにする)」です。

 本研究は、南カリフォルニア大学ケック医学部を中心に展開されるENIGMAコンソーシアム(Enhancing Neuro Imaging Genetics through Meta-Analysis)によって推進されました。ENIGMAは、世界45か国・1,000を超える研究機関が参加する国際的な取り組みであり、脳の構造と機能に影響を及ぼす遺伝的変異の解明を目的としています。

 

脳疾患の遺伝的メカニズムを探る 

USCマーク&メアリー・スティーブンス神経画像情報学研究所のポール・M・トンプソン博士(Paul M. Thompson, PhD)は、「多くの脳疾患は遺伝的要因によって部分的に説明されることが知られていますが、科学的には、遺伝子コードのどの部分が具体的に変化し、病気を引き起こすのかを特定することが重要です。」と述べています。

また、トンプソン博士は、「この研究は世界中で実施されており、これはいわば『人間の遺伝的本質』を探る旅の一環といえます。」と付け加えました。

脳疾患を持つ特定の集団と健常者を比較し、脳の特定の領域が大きいまたは小さいことを明らかにすることで、研究者らは脳機能の異常を引き起こす要因を探る手がかりを得ることができます。さらに、それらの脳領域の発達を制御する遺伝子を特定することで、治療介入の道を開く可能性があります。

 

大規模な国際共同研究が解明する脳の遺伝的基盤 

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)の一部助成を受け、世界各国から集まった189名の研究者によって遂行されました。研究チームは、74,898名の参加者からDNAサンプルを収集し、磁気共鳴画像法(MRI)を用いて「深部脳」における主要な皮質下領域の体積を測定しました。

続いて、研究チームはゲノムワイド関連解析(GWAS:Genome-Wide Association Study)を実施し、さまざまな形質や疾患と関連する遺伝的変異を特定しました。その結果、パーキンソン病や注意欠陥・多動性障害(ADHD)のリスクが高まる遺伝的変異がいくつか発見されました。

オーストラリア・QIMRバーグホーファー医学研究所の計算神経ゲノミクス准教授であり、本論文の責任著者の一人であるミゲル・レンテリア博士(Miguel Rentería, PhD)は、「ADHDやパーキンソン病には強い生物学的基盤があることが知られており、本研究はこれらの疾患を理解し、より効果的に治療するための重要なステップとなるでしょう。」と述べています。

 さらに、レンテリア博士は、「脳構造における個人差の背後にある遺伝的要因を解明することは、脳関連疾患の根本的な原因を理解する上で極めて重要です。」と述べました。

 

「深部脳」構造と遺伝子の関連を解明

研究チームは、以下の9つの主要な皮質下脳領域の体積を解析しました。

 

脳幹(brainstem)

海馬(hippocampus)

扁桃体(amygdala)

視床(thalamus)

側坐核(nucleus accumbens)

被殻(putamen)

尾状核(caudate nucleus)

淡蒼球(globus pallidus)

腹側間脳(ventral diencephalon)

これらの領域は、記憶の形成、感情の調節、運動制御、感覚情報の処理、報酬や罰への応答など、人間の基本的な脳機能に深く関与しています。

 

GWASの解析により、254の遺伝的変異がこれらの領域の体積と関連することが明らかになり、研究参加者間の脳体積の変動の最大10%を説明できることが分かりました。過去の研究では、例えば基底核(basal ganglia)とパーキンソン病との関連が明らかになっていましたが、本研究は脳体積に影響を与える遺伝子変異をより正確に特定するものとなりました。

USCケック医学部のトンプソン博士は、「本研究は、これらの遺伝子が脳のどの領域で作用するのかを正確に特定した、初めての研究です。これは将来的な治療介入のための青写真を提供するものとなるでしょう。」と述べています。

ただし、研究者らは、本研究の結果はあくまで相関的なものであり、特定の遺伝子が特定の疾患を引き起こすことを証明するためには、さらなる研究が必要であると指摘しています。

  

[News release] [Nature Genetics abstract]

 

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