Natureに掲載された研究により、双極性障害に関連する約300のゲノム領域と、疾患に関与する36の主要な遺伝子が特定される

この研究から得られた生物学的知見は、より優れた治療法の開発、早期介入、そしてプレシジョン・メディシン(精密医療)への道を開く可能性があります。双極性障害は、(軽)躁状態と抑うつ状態の間を変動することを特徴とする複雑な精神疾患です。世界中で約4,000万~5,000万人がこの疾患を抱えていると推定されています。双極性障害は、自殺を含むさまざまな負の影響と関連しており、診断までに平均8年かかることが知られています。しかし、この疾患の生物学的なメカニズムについては未だ十分に解明されていません。

 今回の新たな研究では、約290万人の参加者のデータを分析しました。研究者らは、欧州系、東アジア系、アフリカ系アメリカ人、ラテン系の祖先を持つ参加者(双極性障害患者158,036名、対照群280万人)を対象に、臨床データ、地域社会ベースのデータ、自己申告データを統合して解析しました。その結果、双極性障害に関連する298のゲノム領域が特定され、これまでの発見の4倍に相当する成果となりました。さらに、複数の手法を組み合わせた解析により、双極性障害と強く関連する36の遺伝子が特定されました。

 この研究結果は2025年1月22日にNature誌に掲載されました。論文のタイトルは「Genomics Yields Biological and Phenotypic Insights into Bipolar Disorder(ゲノミクスがもたらす双極性障害の生物学的・表現型的洞察)」です。

 「これは、双極性障害に関する初の大規模な多民族ゲノム解析であり、双極性障害の異なるタイプを含んでいます。大規模なサンプルサイズのおかげで、双極性障害に関連する遺伝的バリアントを約300個特定することができました」と、オスロ大学 精密精神医学センターのケビン・オコンネル博士(Kevin O’Connell, PhD)は述べています。「これらの遺伝学的発見により、双極性障害の基盤となる生物学的メカニズムの理解が深まりました。」

 

双極性障害のサブタイプ間における分子生物学的な違い

研究者らは、臨床データ、地域社会ベースのデータ、自己申告データのいずれのサンプルから参加者が募集されたかによって、双極性障害の遺伝的シグナルに違いがあることを明らかにしました。さらに、双極性障害のサブタイプIとIIの間にも遺伝的な違いが見られました。

自己申告によるサンプルでは、双極性障害II型だけでなく、大うつ病性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、自閉症スペクトラム障害といった他の精神疾患との遺伝的重複がより強く示されました。一方で、臨床データをもとにしたサンプルでは、双極性障害I型および統合失調症との遺伝的重複がより顕著であることが判明しました。

 「これらの結果は、双極性障害のサブタイプ間で分子生物学的な違いがあることを示唆しており、今後の研究のみならず臨床的な観点からも重要です」と、オスロ大学 精密精神医学センターのオーレ・アンドレアッセン博士(Ole Andreassen, MD, PhD)は述べています。

 さらに解析を進めた結果、双極性障害における前頭前野および海馬の神経細胞の関与が示唆されました。興味深いことに、本研究では腸や膵臓の細胞も双極性障害に関与していることが明らかになりました。これは、双極性障害の生物学的な病因を理解する上で新たな知見を提供するものです。

 

将来の患者ケアへの影響

今回の研究成果が直ちに患者の治療に影響を与えるわけではありませんが、長期的にはさまざまな可能性を秘めています。

「この研究から得られた生物学的知見は、より優れた治療法の開発、早期介入、そしてプレシジョン・メディシン(精密医療)の実現に貢献する可能性があります。双極性障害の生物学的リスク要因を理解することは、医師がこの疾患の管理に関する意思決定をより効果的に行うための支援にもつながります。」と、アンドレアッセン博士は述べています。 

この研究では、双極性障害に関連する36の主要な遺伝子が特定されました。これらの遺伝子は、双極性障害とどのように関係しているのかを明らかにするための実験において優先的に研究されることになります。さらに、新たな創薬ターゲットの探索や、双極性障害の治療薬の開発にも活用される可能性があります。

 

これまでで最大規模の双極性障害の遺伝学研究 

本研究は、双極性障害に関するこれまでで最大規模のゲノムワイド研究であり、欧州系、東アジア系、アフリカ系アメリカ人、ラテン系の祖先を持つ参加者のデータを分析しました。

この研究は、精神疾患ゲノム学コンソーシアム(Psychiatric Genomics Consortium, PGC)によって実施されました。PGCは、精神疾患の遺伝的基盤を研究するために結成された国際的なコンソーシアムで、世界40カ国以上の150を超える研究機関から800人以上の研究者が参加しています。

「この研究は、世界中の科学者らの協力なしには実現できませんでした。何十万ものDNA配列を解析することで、この大規模研究が可能になったのです。特に、若手研究者チームが解析を主導し、このプロジェクトの成功に不可欠な役割を果たしました」と、オコンネル博士は述べています。


[News release] [Nature abstract]

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