UCLA研究チーム、新たな分子でアルツハイマー病モデルマウスの認知機能を回復――他疾患治療への応用も期待。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医療センターの研究者らは、新たに同定および合成した分子が、アルツハイマー病の症状を示すマウスの脳で記憶回路を効果的に再活性化させ、認知機能を回復させることを確認しました。この研究は、2024年8月6日に科学誌PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)に掲載され、「A Therapeutic Small Molecule Enhances γ-Oscillations and Improves Cognition/Memory in Alzheimer’s Disease Model Mice(治療用低分子がガンマ振動を増強し、アルツハイマー病モデルマウスの認知・記憶機能を改善)」という論文タイトルで発表されました。
研究チームによれば、この化合物がヒトでも同様の効果を発揮することが証明されれば、記憶や認知機能を回復できる全く新しい治療薬としてアルツハイマー病治療において画期的な役割を果たす可能性があるとしています。
本研究の主著者であるUCLA医療センターの神経学および生理学教授であるイシュトヴァン・モディ博士(Istvan Mody, MD, PhD)は、「この分子は、現行の治療薬とは異なるメカニズムで作用し、現在市場や実験段階のいずれにおいても、このような機能を持つものは他にありません」と述べています。
新規化合物DDL-920の作用機序とその効果
モディ博士らの研究チームが開発した新規化合物DDL-920は、FDA(米国食品医薬品局)に承認されているアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」や「アデュカヌマブ」とは異なり、脳内の有害なプラークを除去するのではなく、脳の記憶回路を直接的に活性化させることを目的としています。これまでの治療薬は、プラークを除去することによって認知機能の低下を遅らせることはできても、既に失われた記憶や認知機能を回復させることはできませんでした。
「プラーク除去によって脳を一見きれいにしたとしても、神経回路やニューロンのメカニズムにおける病理学的な変化は残されたままです」とモディ博士は説明しています。
この研究では、モディ博士とヴァーゲス・ジョン博士(Varghese John, PhD, UCLA医療センターの薬物発見研究室(Drug Discovery Laboratory)所長)は、脳の記憶回路を活性化させるための分子を探し出すことを目指しました。脳はさまざまな機能を開始・停止するために、さまざまなリズムで電気信号を発しており、その中でもガンマ振動(gamma oscillations)は最も高頻度のリズムの一つで、認知機能や作業記憶を司る回路を調整する役割を果たします。アルツハイマー病の初期症状である軽度認知障害を有する患者では、このガンマ振動が減少していることがわかっています。
マウスモデルを用いた記憶回復の検証
研究チームは、アルツハイマー病の症状を示す遺伝子改変マウスと通常のマウスを用いて、DDL-920の効果を検証しました。まず、両群のマウスに「バーンズ迷路(Barnes maze)」を使用した認知テストを実施しました。この迷路は、視覚的な手がかりに囲まれた円形のプラットフォームで、1つの脱出孔を含むいくつかの穴があり、マウスが脱出孔の位置をどれだけ学習し、記憶できるかを測定します。
初期のテストを行った後、アルツハイマー病モデルマウスに対してDDL-920を2週間にわたり1日2回経口投与しました。その結果、治療を受けたアルツハイマー病モデルマウスは、野生型マウスと同等の速度で迷路の脱出孔を記憶することができました。また、治療期間中、治療を受けたマウスは異常行動や過活動といった副作用を示さず、安全性が確認されました。
モディ博士は、「この治療法はマウスにおいて効果的であることが確認されましたが、ヒトにおいて安全かつ効果的であることを証明するためには、さらなる研究が必要です」と述べています。仮にヒトにおいても効果が証明された場合、この化合物はアルツハイマー病だけでなく、ガンマ振動が減少している他の疾患、例えばうつ病、統合失調症、自閉スペクトラム症(ASD)などの治療にも応用できる可能性があると考えられています。
「この治療法は、その新規性とこれまでの治療法とは異なる作用機序により、大きな期待を寄せています」とモディ博士は語っています。



