リミペードカニ由来の毒素に創薬の可能性:メキシコのセノーテ洞窟の生物多様性保護の重要性
近年、海洋生物の毒素研究が創薬の新たな道を切り開いています。2024年7月29日、学術誌BMC Biologyに掲載された論文「Diversely Evolved Xibalbin Variants from Remipede Venom Inhibit Potassium Channels and Activate PKA-II and Erk1/2 Signaling(リミペード毒素由来の多様なキシバルビン変異体がカリウムチャネルを阻害し、PKA-IIおよびErk1/2シグナル伝達を活性化)」では、メキシコ・ユカタン半島のセノーテ洞窟に生息するリミペードカニの毒素「キシバルビン」の特性と創薬応用の可能性が明らかになりました。
キシバルビン:海洋毒素の新たな発見
リミペードカニは、毒腺で生成された毒素を獲物に直接注入します。この毒素には、耐酵素性や耐熱性を持つ「ノッティン」と呼ばれるペプチドが含まれ、神経毒として作用することが知られています。今回の研究で注目されたペプチド「Xib1」「Xib2」「Xib13」は、哺乳類のカリウムチャネルを効果的に阻害することが実証されました。この作用は、てんかんなどの神経疾患治療薬の開発において重要とされています。また、これらのペプチドは、神経や心筋細胞に存在する電位依存性ナトリウムチャネルも阻害する特性を持っています。
さらに、「Xib1」と「Xib13」は、高等哺乳類の感覚ニューロンでシグナル伝達に関与するタンパク質「PKA-II」および「ERK1/2」を活性化させ、痛みの感作に寄与する可能性が示唆されました。これにより、痛み治療における新たなアプローチが期待されています。
海洋生物多様性と研究の課題
研究を主導したゲーテ大学フランクフルトの客員研究者ビョルン・フォン・ロイモント博士(Björn von Reumont, PhD)は、「この研究は、海洋生物多様性が未開拓の創薬資源であることを示している」と述べています。しかし、動物毒素を創薬に応用するには多くの時間とリソースが必要であり、今回のような多分野の協力が不可欠です。
加えて、リミペードカニの生息地であるセノーテ洞窟は、ユカタン半島を横断する鉄道プロジェクト「トレン・マヤ」による環境破壊の危機に瀕しています。フォン・ロイモント博士は、「セノーテは非常にデリケートな生態系であり、生物多様性を保護することは、創薬や人類の健康においても極めて重要だ」と強調しています。



