新型コロナの「免疫記憶」を、がんと闘う力に変える新型ワクチン

樹状細胞を用いたがんワクチンは、これまで200件近い臨床試験で安全性が確認されてきましたが、実際に腫瘍が縮小するなどの明確な効果が得られる患者は全体のおよそ15%にとどまっていました。原因の一つは、腫瘍抗原そのものの免疫原性が弱く、CD4陽性ヘルパーT細胞による十分な助けを得られないことにあります。この度、米ケース・ウェスタン・リザーブ大学とユニバーシティ・ホスピタルズの研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へのワクチン接種や感染によって多くの人がすでに獲得している「抗ウイルス免疫記憶」を逆手に取り、がんワクチンの効果を底上げする新しいアプローチを開発しました。研究成果は2026年7月27日、学術誌「Nature Communications」に掲載されました。論文タイトルは、「The Dendritic Cell-based Vaccine PROTEXI leverages Antiviral CD4 T cell Memory to boost anti-tumor immune responses in mice(樹状細胞ベースのワクチンPROTEXIは抗ウイルスCD4 T細胞メモリーを活用してマウスの抗腫瘍免疫応答を増強する)」です。

腫瘍抗原とウイルス抗原を「同じ樹状細胞」に提示する

研究チームが開発した「PROTEXI」は、樹状細胞に腫瘍関連抗原(MHCクラスI拘束性のペプチド)と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質由来のCD4陽性T細胞用エピトープ(MHCクラスII拘束性)を同時に取り込ませ、同一の細胞上に両方を提示させる樹状細胞ワクチンです。マウスのメラノーマモデル(B16F10)や乳がんモデル(4T1)を用いた実験に加え、新型コロナワクチン接種歴のあるドナー由来のヒトPBMCを使ったヒト化マウスモデルでも検証が行われました。

免疫が「冷たい」腫瘍でも効果を発揮

実験の結果、PROTEXIは腫瘍抗原のみを提示する従来型の樹状細胞ワクチンや、別々に抗原を提示した樹状細胞を混ぜて投与する方法と比較して、有意に高い腫瘍増殖抑制効果を示しました(一元配置分散分析でp=0.0164)。CD4陽性T細胞をあらかじめ免疫記憶として持つマウスでは、4T1乳がんモデルにおいて投与45日目時点での生存率が75%を超え、B16F10メラノーマの予防的投与実験では26日目時点で7匹中5匹の腫瘍が200立方ミリメートル未満に抑えられました。腫瘍への免疫細胞の浸潤が増加するとともに、細胞傷害性CD8陽性T細胞の反応も「エピトープスプレディング」と呼ばれる現象を通じて広がり、免疫が「冷たい」とされる腫瘍でも治療効果を発揮することが確認されました。さらに、免疫チェックポイント阻害剤「抗PD-1抗体」やTGF-β受容体阻害剤「Vactosertib(バクトセルチブ)」との併用によって、治療抵抗性のモデルでも効果が高まることも示されました。ヒト化マウスモデルでも、スパイクタンパク質由来のCD4エピトープとPRAME・MAGE-A3由来のCD8エピトープを組み合わせたPROTEXIが、腫瘍量を有意に減少させ、ヒトの抗スパイク免疫記憶を活用できる可能性が確認されています。

「新しい免疫を作るのではなく、すでにある力を活かす」

研究に携わったセロラム社(Celloram Inc.)のテジ・パリーク博士(Tej Pareek)最高経営責任者は、「私たちはまったく新しい免疫応答を作り出しているのではありません。すでに体が持っている抗ウイルス記憶を活用することで、免疫システムががんを認識する力を高めているのです」と説明しています。責任著者を務めるケース・ウェスタン・リザーブ大学のジョン・レテリオ博士(John Letterio)らの研究チームは、新型コロナウイルスのワクチン接種や感染を経験した数十億人が、すでに強力な抗ウイルスCD4陽性T細胞メモリーを保持している点に着目しました。この既存の免疫資源を「借用」することで、腫瘍特異的なMHCクラスIIエピトープを新たに見つけ出す必要のある従来のアプローチの限界を回避できるとしています。研究チームは今後、臨床応用に向けた最適化と、既存の免疫療法との併用レジメンの検討を進めるとしています。

[News release] [Nature Communications article]

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